オークランドのハーバーブリッジは、オークランドとノースショアの間に横たわるWaitematā Harbour(以後、ワイテマタ湾)をまたぐ重要な橋として1959年に開通して以来、唯一のインフラとして人や物の往来を支えています。
1959年というと日本では、伊勢湾台風の年。テレ朝、フジテレビが開局した年。週刊少年マガジン、週刊少年サンデーが創刊した年。南極昭和基地に置き去りにしたタロとジロの生存が確認された年。そして使用する計量単位を従来の尺や貫といったものからメートルとキログラムを基準とする「メートル法」が完全実施された年です。
ハーバーブリッジが開通した1958年当時と、2022年のオークランドの人口を比べるとその数はおよそ35万人から4倍の146万人に増えています。ブリッジは時間帯で上りと下りのレーン数を変更したり、バスの利用を促したり、あの手この手で対策を講じるものの、交通量は非常に多く、渋滞は日常と化しています。
ハーバーブリッジには「日本の技術が使われている」とか「Nippon clip-onsと言うんだ」とか聞いたことがあるかもしれませんが、それは1968-69年にかけて車線を4車線から各方面2レーンずつ増やして8車線にした際に日本の石川島播磨重工(現:株式会社IHI)が請け負った増設道路のことを指しています。
またブリッジはメインテナンスを欠かさずに行っているにせよ、時間の経過とともに老朽化も進んでおり、早急な修繕が必要という状況下で、ニュージーランド政府が新たな計画を発表したというのが今回の動きです。
ただね、
期待膨らませるべきところでネガティブになってしまい心苦しいのですが、
この計画は、現実味あるの?財源どうするの?? 災害対策は???と、冷ややかな目を向けるオークランダーがいっぱいいるんです。むしろそういう目で見ている人のほうが多いんじゃないかと思います。
それはなぜか?
なぜなら、計画は今回が初めてではなく、1970年代年から「検討リサーチ > 計画 > 資金調達難 > 反対 」 のループを50年かけて繰り返し続けているからです。
ワイテマタ湾 縦断計画の過去
え、50年!?と思って興味をもった方はこちらからWiki(英語)をご覧ください。
詳細は不要という方は、ごく簡単にまとめた下記をご覧ください
1959年 | ハーバーブリッジ開通。*開通初日から予想を上回る交通量 |
1969年 | Nippon clip-ons 車線を片側4レーン、計8レーンに拡張。それでも渋滞解消せず |
1970年代 | 2番目の港湾縦断の建設について検討開始>トンネル、橋、フェリーなど検討されたが実現せず |
1980年代 | トンネルの建設計画> 自然災害リスクが高い。費用が莫大>計画中止 |
1990年代 | 第2の橋の建設計画> 景観や環境への影響懸念、費用が莫大> 計画中止 |
2000年代 | フェリーの増便計画> 渋滞を解消するには不十分、費用が莫大> 計画中止 |
2010年代 | トンネルの建設計画> 自然災害リスクが高い。費用が莫大> 計画中止 |
当然、Wikiを見れば、色々と書いてありますよ。
でも、上記のまとめを見ると、計画を具現化させる気ないのでは? 時のリーダーはみなさんそれぞれ下記のように思ってたんじゃない?と勘ぐらずにいられません。
1959年にハーバーブリッジが開通した時点からずっと、第2、第3のワイテマタ湾を縦断するインフラが必要だということは分かっているから、知らぬ存ぜぬは通らない。。。
だから、検討はしますよ。でも、そもそも造ろうにも金がかかりずぎて財源確保が困難でしょ。
無理に案を押し込むと選挙にも勝てないし、なんなら市民もあんまり歓迎してなくない?
ここは一度計画を中止ということにして後は次世代に期待しましょう。
だって計画頓挫の理由がずっと同じって、中止から学ぶとか改善するとかないし、計画を前に推し進める気概が見られないよね。
2020年代はトンネルとライトレールの建設計画
そして、2023年8月6日、ヤバイよー 時限爆弾作動しちゃうよー ジョーカー引いちゃったよーという叫び声が聞こえそうな状態で、ワイテマタ湾の海底をはしらせるトンネルとライトレールの建設計画がクリス・ヒプキンス首相から発表されました。
今回は、「今後10-15年でハーバーブリッジは使用停止に追い込まれる」と運輸相に発言させて待ったなしの状態であることを強調しつつ、ニュージーランド政府が主導して計画に推進力を持たせることで財源確保を強固に進めていこうとする狙いのようなものを感じ取りました。
そして、プロジェクト全体像をみると、単なるワイテマタ湾縦断のボトルネック解消ではなく、ワイテマタ湾縦断を軸にしたオークランド市内全域の公共交通インフラを整備するものであることが予算配分をみると一目瞭然でわかります。
そして計画のハイライトは、ワイテマタ湾縦断海底トンネルに絡めて、ノースショアに導入を目論むライトレールです。
これをニュージーランド政府の既存の計画であるWynyard Quarter ‐ オークランド空港間をつなぐライトレール計画に追加して北はAlbanyから南はオークランド空港まで接続させるというのがポイント。
計画はいいですよ。盛大にぶちまけて、みなさん注目してくださいという感じ。
でも気になります。
運輸相が「あと10年くらいでハーバーブリッジ使えなくなっちゃうかもよ」と言っているのに、予定作業開始時期は2020年代後半だという点が。
また計画倒れになるんじゃないの?
計画は今のところ、絵に描いた餅です。財源確保のメドどころか、これから色々な選択肢をテーブルに乗せていくと言ってるレベルです。
決まるのに時間がかかるのは理解しますし、クリス・ヒプキンス首相から、「俺じゃない」という声が聞こえてきそうですが、
でも、
この計画は検討し始めてからすでに50年くらいかかってますからね。
財源どうする? 災害対策は? ワイテマタ湾の生態系を守れ! 増税反対!など過去と同じ声は必ず挙がるので、計画倒れになる可能性は十分にあります。
しかし、災害対策と湾の生態系を守ることはもはや中止の理由にはならないでしょう。
今回発表された海底トンネルの長さはおよそ5km。トンネルで5kmというのは、長い部類に入ります(日本のトンネルの長さは平均約1km)が、珍しいわけでもなく世界中にあり、経験とノウハウのある業者が入札に参加するはずなので、環境関連団体が騒ぐことはあれど、ここが深刻な懸念事項になるとは考え難いです。
AIに聞いてみました。 日本で長さ5~6kmほどの海底トンネルと言えば?
- 関門トンネル(5.4km)
- 伊勢湾トンネル(5.8km)
- 箱根新道トンネル(5.4km)
- 御殿場トンネル(5.2km)
- 横浜横須賀道路トンネル(5.1km)
問題は、はやり予算。お金です。
ニュージーランドは福岡県同等の500万人程度の人口から得る税収入で国家を運営しています。運営する規模は、日本の本州と四国を合わせた程の(人口比で言えば)広大な国土なので、なにをやるにもコストがかかり、またオークランドだけに国民の血税をつぎ込むことも難しい。
それなのに計画は$40b位かかると。
もちろん、長期計画なので、10年のスパンで合計それくらいという話ですが、非常に大規模です。
比較情報として挙げておくと、2023年度のニュージーランド国家予算では、新たなインフラ投資に向こう5年間で$71b使うことが盛り込まれています。1年約$14bの計算ですが、この予算はニュージーランド全土のインフラ投資に当てられるもの。
仮に今回の計画で試算された$40bを10年計画とすれば、年間$4bということになり、現在の予算規模で言えば、インフラ投資予算のおよそ30%を10年間、この計画だけに費やすというもので、いかに大規模な話をしているのかがわかるかと思います。
今後の行方
まだまだ始まったばかりのこの計画は一枚岩ではなく、既に政府が推し進めているいくつかある計画に少しずつ潜り込ませるように追加していく長期計画なので、今後発表される政府の方針に優先順位をつけて段階的に進めていくことを前提に、民間企業を巻き込んで資金調達の目処をつける事ができるかどうかが大きなポイントの1つになると思われます。
そして、10月に総選挙を控えて、野党がこの計画に対して異を唱えるかどうかでも話を前進させられるか詰まるのかも注目ポイント。
今回の計画がうまくいくと、より多くの人がオークランドに住み、移民が増え、経済が動き、税収も上がり、都市の高密度化が進み、市は効率良く街の発展を計画することがで、やがてそれが他の都市へ広がり国が潤います。
ハーバーブリッジの老朽具合と、人口増加率を考えると、過去50年やってきたような、小手先の渋滞回避策で延命をはかる時期は過ぎており、ニュージーランド国内最大の商業都市オークランドを成長させるための交通網の整備は待ったなしの状況だと個人的には思います。
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