2023年8月、StatsNZ(ニュージーランド統計局)が2022年7月から2023年6月までの1年間でニュージーランドに流入した外国籍を持つ移民者(永住ビザ所有者)数の推計を86,800人と発表しました。
2022年初頭からコロナ禍による国境規制が緩和され、また経済に刺激を与えるためにも積極的な移民の受け入れを行なっていることに伴い、2022年11月以降、毎月平均約12,000人の永住ビザを所有する外国籍者が流入しているようです。(歴史的にみても高水準)
ニュージーランドに住む皆さんの周囲にいる邦人の方々は、「最近ニュージーランドに引っ越してきました!」という方と、「さよならニュージーランド!」という方、どちらが多いでしょうか?
本稿では、ニュージーランドに住む日本国籍を持つ永住者の数を探ってみました。
邦人移住者数は1年間で爆増 前年比 +412.6% !!!
2022年7月から2023年6月までの1年間でニュージーランドへ移住してきた邦人の数は1,953人。(前年同期間中の邦人移住者数381人と比べて1,572人多い+412.6%)
「邦人」とは、日本国籍者で日本のパスポートを所有している人を指しています。
「日本に在住していたた外国籍者」とは、様々なケースが考えられます。例えば日本で生まれ育っているが国籍(パスポート)は外国といった場合や、仕事等で日本に滞在している間にニュージーランドの永住ビザを取得して日本からニュージーランドに移り住んできたケースなどに該当する人を指します。
邦人爆増 !かと思えば、そんなこともない・・
たしかに、永住ビザを取得してニュージーランドに移り住んできた邦人が1年間で1,953人もいたと聞けばものすごく増えていると感じます。
が、
来る人がいれば去る人もいるのが世の常。
2022年7月から2023年6月までの1年間で、ニュージーランドに「さようなら」をした永住ビザを持つ邦人の数は1,266人もいました。
流入1,953人と流出1,266人なので、1年間で純粋に増えた邦人の数は687人という結果になります。
過去2年間の出入りが異常
永住ビザを所有してニュージーランドに住んでいる邦人の純増減数+687人とは、はたして多いのか少ないのか?
StatsNZ提供のInfoshareを使い、過去20年間(2003 ‐ 2022年)でニュージーランド永住ビザを所有する邦人のニュージーランド移住、およびニュージランドを去った数を探ったところ、次のような結果になりました。
年 | 流入 | 流出 | 純増減数 | 累計 | 出来事 |
2003 | 2,100 | 1,612 | 488 | – | 移民政策の緩和 |
2004 | 1,946 | 1,717 | 229 | 717 | |
2005 | 1,764 | 1,765 | -1 | 716 | |
2006 | 1,716 | 1,589 | 127 | 843 | |
2007 | 1,644 | 1,457 | 187 | 1,030 | 永住ビザ申請にポイント制を導入 |
2008 | 1,460 | 1,501 | -41 | 989 | 金融危機 |
2009 | 1,454 | 1,421 | 33 | 1,022 | |
2010 | 1,212 | 1,397 | -185 | 837 | クライストチャーチ大震災・東日本大震災 |
2011 | 1,413 | 1,260 | 153 | 990 | |
2012 | 1,513 | 1,131 | 382 | 1,372 | |
2013 | 1,353 | 1,224 | 129 | 1,501 | |
2014 | 1,396 | 1,136 | 260 | 1,761 | |
2015 | 1,565 | 1,138 | 427 | 2,188 | |
2016 | 1,609 | 1,197 | 412 | 2,600 | 移民の受け入れ制限強化 |
2017 | 1,513 | 1,286 | 227 | 2,827 | |
2018 | 1,450 | 1,310 | 140 | 2,967 | |
2019 | 1,526 | 1,477 | 49 | 3,016 | |
2020 | 1,770 | 1,353 | 417 | 3,433 | Covid-19パンデミック |
2021 | 227 | 1,169 | -942 | 2,491 | Covid-19パンデミック/ ワクチン接種 |
2022 | 249 | 1,267 | -1,018 | 1,473 | Covid-19パンデミック/ 住宅価格平均30%高騰 |
2003-22年 | 年平均 |
流入者数 | 1,444人/年 |
流出者数 | 1,370人/年 |
純増減者数 | +74/年 |
これをみると、直近の2021-22年にかけて、ニュージーランドに永住していた邦人2,436人が国を去り、それまでコツコツと積み上げられてきていた在ニュージーランド邦人純増累計数が約2,000人純減している部分に目がいきます。
過去に類を見ない大きな減少ですが、原因は大量の邦人がニュージーランドを去ったためではなく、流入してくる邦人が激減していたためです。
20年間の平均年間流入者数1,444人に対して、2021-22年にニュージーランドへ移住してきた邦人は年間約240人 と、平均の15%強ほどしか流入していません。
一方で流出は20年間の平均年間流出者数1,370人に対して、2021-22年は平均を下回っています。(2021年:1,169人、2022年:1,267人)
個人的に、2021-22年にかけてコロナ禍による経済的ダメージやワクチン接種を嫌ってニュージーランドを去る決断をした人の話を耳にすることがちらほらあり、みんな帰っちゃうねなんて声も聞いた気がしますが、むしろ例年よりニュージーランドを離れていった邦人は少なかった。という統計結果です。
邦人純増減数は?
ニュージーランドに永住してきた邦人の増減数でみると、2021-22年に流入数が極めて低かったことで大きく減少した事がわかりますが。20年(2003 ‐ 2022年)という長い期間では1,473人増えたと言えます。
つまり、何人の邦人永住者が住んでいるのか?
過去20年でニュージーランドに流入してきた邦人が累計1,473人増えたのは分かりましたが、それでは合計何人の邦人が永住しているのか?は見えてきません。
そこで、2018年に行われたニュージーランド国勢調査の結果から邦人のデータを抽出してみました。
国勢調査は実施日にニュージーランドに「住んでいる」全ての人(旅行者は除く)が対象でビザの種類は問われていません。例えば留学生やワーホリビザで滞在している人も、私は今ニュージーランドに「住んでいる」と思えば、回答対象者です。
従い、StatsNZが邦人永住ビザ所有者の出入りをまとめたものであるのに対して、国勢調査はビザを問わず、実施日に「私もNZに住んでいる」と自己申告した邦人の数となります。
2018年当時、ニュージーランドに住んでいた邦人数は18,141人 (内訳 男:6,849人 女:11,295人)。
2013年と2006年のデータもあったので、StatsNZの邦人永住者純増減数と併せてまとめると下記の表のようになりました。
国勢調査 邦人数 | 増加数 | StatsNZ 邦人永住者 純増減数 | 国勢調査の増加数/ StatsNZ永住者純増減数 の差 | |
2006 | 11,907 | ‐ | ‐ | |
2013 | 14,118 | +2,211 | 785 | 1,426 |
2018 | 18,141 | +4,023 | 1,466 | 2,557 |
「国勢調査の増加数とStatsNZの純増減数にけっこう差があるな。」
と思った方もいると思いますが、国勢調査はビザを問わず、実施日に「私もNZに住んでいる」と自己申告して調査に回答した邦人の数であるのに対して、StatsNZの統計はニュージーランドの永住ビザを持つ人の流入/流出をまとめたものなので、そもそも合致することはないのです。
けっこうな割合を占めているNBJ
NBJはNew Zealand Born Japanese = ニュージーランド生まれの日本人という意味。
このニュージーランド生まれの日本人は、当然、日本人でありながらも、生まれながらにニュージーランド人でもあるため、ニュージーランドから去らない限り、また、去る時にどのパスポートを使うのかでStatsNZの統計にも異なる影響を与えます。
しかし、永住ビザをもってニュージーランドに住む邦人の数を探るうえでは、ニュージーランド国外から流入してくる数だけでなく、国内で産まれるNBJの数も把握する必要があるため、在ニュージーランド邦人の出生国がわかるデータが見たい!ということで見つけました。
30.1%
2018年国勢調査によると在ニュージーランド邦人の30.1%がニュージーランド生まれの日本人だそうです。
これを人数にすると、国勢調査の邦人18,141人中、30.1%=5,460人がニュージーランド生まれの邦人という事になります。
親御さんが国勢調査に子供は日本人だと申告しているからには、ニュージーランドの永住ビザが日本のパスポートに貼られている。またはその予定だと考えてよいと思います。
実際は、外国籍の両親がニュージーランドで子を出産しても、生まれた赤ちゃんに自動的にニュージーランドの永住ビザが与えられることはなく、かわりにニュージーランド生まれのニュージーランド国民として認められ、ニュージーランドと親の国籍両方のパスポートを持てる重国籍者となります。
5,460人がニュージーランド生まれ、残り12,681人が日本や他国からニュージーランドに移り住んできた邦人となりますが、この12,681人の中に、国勢調査の性質上、非永住者も含まれていると推測できます。
さらに絞り込んだ結果: 2018年時点の邦人永住者数(推計)
2018年国勢調査の邦人18,141人をニュージーランドに住んでいる年数で振り分け、以下の仮定を数字に当てていきました。
- 在住年数によらず、30%はNZ生まれの永住者。残りの70%は外からニュージーランドに移住してきた邦人
- 10年以上住んでいる人はすべて永住者
- 在住1年未満の移住者のうちStatsNZの統計にある2018年の邦人移民流入者数1,450人を永住者としてカウント
- 在住1-4年および5-9年の移住者のうち40%が永住者としてカウント
その結果がこちら。
在住年数 | 割合 | 人数 | NZ生まれ NBJ (30%) | 移住者 (70%) | 移住者内 推計永住者 | 移住者内 推計被永住者 |
1年未満 | 14.1% | 2,558 | 767 | 1,791 | 1,450 | 314 |
1-4年 | 21.4% | 3,882 | 1,165 | 2,717 | 1,087 | 1,630 |
5-9年 | 16.1% | 2,921 | 876 | 2,045 | 818 | 1,227 |
10-19年 | 30.2% | 5,379 | 1,614 | 3,765 | 3,765 | 0 |
20年+ | 18.2% | 3,302 | 991 | 2,311 | 2,311 | 0 |
NBJと移住者内推計永住者数の合算が、2018年の時点でニュージーランドに住んでいる邦人永住者数だと推計すると、
14,844人となりました。
在ニュージーランド邦人を在留届ベースでみると?
ここまで、ニュージーランド側による邦人永住者の流出入記録や、国勢調査から得られた情報を元に2018年の時点でニュージーランドに住んでいる邦人永住者数を推計14,844人としてきました。
今度は、日本の外務省が在留届をベースに行なっている海外在留邦人数調査統計をみてみます。
海外在留邦人数調査統計の最新情報は2022年ですが、ここまでニュージーランドのデータは2018年のものを使ってきているので、海外在留邦人数調査も2018年の情報をみてみました。
すると、2018年の海外在留邦人数調査では、在ニュージーランド邦人数は20,822人。
ここでいう「在ニュージーランド邦人」とは、ニュージーランドに3か月以上在留している日本国籍を有する者を指しており、数字は、在ニュージーランド日本国大使館または総領事館に任意で提出される「在留届」を基本資料として日本国外務省がまとめる「海外在留邦人数調査統計」が出典です。
海外在留邦人数調査の対象はビザの種類に関係なく「在留届」を提出した全ての人をカウントし、また、ニュージーランドを離れる際に「帰国届」を提出していない人も実態は帰国済みでも統計上はニュージーランド在留邦人のままカウントされています。逆に、在留届を提出していない人は、何年ニュージーランドに住んでいても、海外在留邦人としてカウントされないため、あくまでも、1つの参考値に留めるのが良いかと思います。
在留邦人数 | 前年比 | オークランド 都市圏 在留邦人数 | 前年比 | オークランド 在住者比率 | |
2022 | 19,730 | -3.4% | 10,001 | -2.0% | 51% |
2021 | 20,430 | -5.8% | 10,201 | -2.7% | 50% |
2020 | 21,694 | -1.6% | 10,486 | -1.1% | 48% |
2019 | 22,047 | +5.9% | 10,598 | +15.6% | 48% |
2018 | 20,822 | +5.9% | 9,171 | -4.7% | 44% |
ニュージーランド側のデータを元に算出した邦人永住者数推計14,844人と、外務省に在留届を出している邦人20,822人の差は約6,000人。
この6,000人は永住ビザをもたないものの、ニュージーランドに3ヶ月以上滞在するため在留届を提出している、ワーホリを含むワークビザや学生ビザの方々という推測ができます。
邦人に発給された永住ビザ以外のビザ数
残念ながら2018年のデータが見つからなかったのですが、Ministry of Business, Innovation & Employment(MBIE:企業・技術革新・雇用省)が発表している2016/2017年度の学生ビザ、ワーホリビザ、ワークビザの発給数がわかるデータが有りました。
このデータから2016/2017年度に邦人に対して発給されたビザの数を抽出した表がこちら。
2016/17 | 発給数 | |||
ワークビザ | 5,118 | ワーホリビザ | 2,661 | |
その他のワークビザ | 2,457 | Family, Essential Skills, Specific purpose, Study to Work, Horticultuyre & Viticulture Seasonal WOrk, Work to Residence, Others | ||
学生ビザ | 3,554 | Full fee-paying student visas | 1,585 (以下内訳) | |
Primary/Secondary | 37 | |||
Polytechnics | 329 | |||
Universities | 78 | |||
PTEs (Private Training Establishments) | 1,141 | |||
その他の学生ビザ | 1,969 | Dependant, English language studies, Exchange Student, Section 61, Other |
この表から、ワークビザと学生ビザ、合わせて8,672件が2016/2017年度期間中に邦人に対して発給されたことが分かります。
この内、その他のワークビザを受給した2,457人と、Full fee-paying student visas受給者1,585人の合計4,042人は1年以上の長期滞在をしているため在留届を提出していると仮定すると、残り2,000人は出入りの激しいワーホリビザおよび短期留学ビザの受給者4,630人の内、約半数が在留届を提出していると考えれば、さほど無理なく受け入れられるように思います。
現在の推計永住者数と今後の推移
ここまで述べてきたとおり、推計ではあるものの、2018年時点でニュージーランドに住んでいる邦人永住者数を14,844人とすれば、その後、2022年までの4年間に、ニュージーランドの永住ビザをもつ邦人の流出入による純増減はマイナス1,500人ほど。
14,844人 – 1,500人 = 13,344人
あとはニュージーランド生まれのNBJがどれほど増えているか?ですが、出生に関するStatsNZの統計はアジアンの大分類に日本人を入れているため、国勢調査以外に’日本人’データがありません。
そこで2018年の国勢調査で分かっている以下の割合を当てはめてみます。
- 邦人の男女比率:40 : 60 = 13,350人のうち女性は8,010人
- 20-44歳に該当する邦人女性の割合:42% = 8,010人のうち3,364人
3,364人に、1人の女性が生涯に産む子供の数の平均値を日本の厚労省が発表している全国特殊出生率1.37とStatsNZが発表しているTotal Fertility Rate(TFR=特殊出生率)1.61 の中間値1.49として計算すると、
3,364人 x 生涯に産む子供の数の平均値1.49 = 5,012人
この数のNBJが24年間で産まれる計算になります。
さらに24年間に振り分けると、5,012人 ÷ 24年= 209人となり、年間209人が産まれると推測するなら、2018年から2022年までの4年間で生まれたNBJは836人と試算できます。
すると、2022年時点での永住者数は13,344人+NBJ 836人 = 14,180人(推計)となり、2018年の推計14,844人と比べて4%ほど減少しているという見方ができます。
しかし、冒頭で述べている通り、2022年7月から2023年6月までの1年間でニュージーランドに流入した外国籍を持つ移民者(永住ビザ所有者)数は推計86,800人と歴史的高水準であり、邦人も流入1,953人、流出1,266人、純増減数+687人と、2003年に記録した純増数488人を大きく上回る勢いで推移しています。
ニュージーランドに永住する邦人の数が増えることの意味
ニュージーランドに永住する邦人の数が増えることは、単に同郷の志が増えて、日本人コミュニティだけでも生活できる環境が整うのではなく、在留邦人同士の交流が活発化し、地域社会への溶け込みやすさが増すことで、日本の価値観、技術、食、文学、アート、スポーツなどの文化や習慣を学び、伝える機会が増え、より居心地の良い環境が整うことにつながっていきます。
海外在住経験のない方からすれば、一見おかしなことを言っているように映り、「それなら日本に留まればよいのでは?」と思われがちですが、多民族国家になりつつあるニュージーランドで生活することは、国際的な交流が活発化し双方向で異文化や習慣に触れられることであり、そこで柔軟性や適応力が養われ、新たな視点からの学びが得られやすくなるなど、個人の成長の糧としてより多くの経験を積む機会につながると思います。
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