ニュージーランドのソールフード、「パイ」のNo.1を決めるBakels New Zealand Supreme Pie Award が今年も行われました。
ベーカリーの入口にこんなサインが貼られているのを見たことありませんか?
ベーキングに欠かせない原材料の製造販売を1904年から続けるBakels が1996年から行っているアワードで、ウェブサイトによるとニュージーランド全国から約600ものエントリーがある、最も権威のある食品コンペの1つだそう。
今年の最優秀賞 受賞パイとベーカリー店名
今年の最優秀賞 Supreme Pie Awards を勝ち取ったのは、南島 クライストチャーチ近郊のランギオラにあるRangiora Bakery の Slow Cooked Sumatra Style Beefでした。
ニュージーランド政府観光局のウェブサイトでは、「カンタベリー名産のラム肉を味わうなら、ランギオラが一番」と書き記していますが、こちらのパイが新たな注目を浴びると良いですね。
賞を取りにきた感 ‐ 個人が営むベーカリー店ではなく、完全に企業
このRangiora Bakeryは、ウェブサイトを持っているというだけで「普通」ではない感じがしますが、サイトを見るとニュージーランドの古き良きパイを売う素朴な個人が営むベーカリー店の姿ではなく、その場で飲食もできるカフェのような、それなりの資本が投下されていそうなスタイルのベーカリー。
更にサイトを見ていくと、単なるベーカリーではなく、冷凍させた商品を国内外に流通させたり、航空会社やQSR (Quick Service Restaurant:日本語で言うところのファーストフードレストラン)にも卸しているようで、工場はHACCP認証に相当するニュージーランド第一次産業省(MPI)食品管理計画認証も得ており1100種類もの商品を取り揃えているらしい。
ベーカリーで間違いないのですが、
なんというか、
私がイメージしていたニュージーランドにある町のベーカリーではなく、完全に企業でした。
その点において何も悪いことはなく「美味しいものは美味しい」で済む話ですが、勝手に町のベーカリーが競っているイメージだったので自分の中で、これじゃない感がでてしまいました。
そもそも、とても有名な店
Rangiora Bakeryは、今回が初めての受賞というわけではなく、2022年にはBaking New Zealand という業界団体主催のChristmas Competitionで、ドイツで伝統的にクリスマスで食べるパンとされるStollen(日本語ではシュトーレン)で優勝。
2020年にも同じくBaking New Zealand主催のGreat NZ Hot Cross Bun competitionでも優勝している人気&有名店のようです。
Supreme Pie Award 審査は全11部門
定番の味を審査する他に、グルメ部門、ベジタリアン部門、カフェ部門や卸部門といったものもあります。
Bacon & Egg | Mince & Gravy | Mince & Cheese |
Potato Top | Steak & Gravy | Steak & Cheese |
Chicken & Vegetables | Gourmet Meat | Vegetarian |
Café Boutique | Commercial/Wholesale |
受賞と入賞
各部門ごとに1位から10位までが入賞という仕組みになっていて、
そのうちの1位~4位までは順位ではなく、それぞれ「Gold」「Silver」「Bronze」そして 「Highly Commencded(高評価)」と称されています。
そして各部門でゴールドを受賞したパイの中から、その年の最優秀パイに贈られるSupreme Pie Awardsが決まるようです。
このようなアワードは受賞することで販売促進につながり、当然、受賞はシルバーよりもゴールドが良く販売数量にも影響を及ぼす傾向が強いことから、近年はゴールド(金賞)が1位ではなく、トロフィーが1位でゴールドは2位という形にして、1位も2位も消費者にアピールできるようなワーディングがされていたりする事も多いなか、こちらのアワードはあくまでも1位をゴールドとしつつ、ブロンズに続く第4位を Highly Commencded(高評価)と表現して価値を高める手法を採用しています。
地域ごとの受賞パイと店舗所在地
地域別に受賞したパイの数をみるとオークランドがダントツの15個。次いでタウランガ4個、ハミルトン3個、ランギオラ2個と続いています。
受賞店舗数でみてもオークランドが10店舗と他を圧倒し、次いでハミルトン3店補、タウランガ2店舗となっています。
ベジタリアン部門、グルメ部門、カフェ部門の受賞パイ
これら3カテゴリーは、例えば、ステーキ&チーズパイといった特定の味で競わない、いわば創作部門のため、受賞パイごとに商品が異るので、受賞パイの名前をリストにしておきました。
ベジタリアン部門
Gold | Patrick’s Pie Group Limited | Stir Fried Vegetable with Potato | 2 Taurikura Drive, Tauriko, Tauranga 3110 |
Silver | High Bakery & Cafe | Spinach, Mushroom and Onion | 2/122 Silverdale Road, Silverdale, Hamilton 3216 |
Bronze | Paetiki Bakery | Pumpkin, Broccolli, Potato and Mushroom | 199 Rifle Range Road, Taupō 3330 |
グルメ部門
Gold | Rangiora Bakery | Slow Cooked Sumatra Style Beef | 18 High Street, Rangiora 7400 |
Silver | Richoux Patisserie Ellerslie | Maui’s Mana Pie | 119 Main Highway, Ellerslie, Auckland 1051 |
Bronze | Fresh Bun Cafe | Scallop with Creamy White Sauce | 42 George Street, Tuakau, Waikato, 2121 |
カフェ部門
Gold | Leeves at Portstone | Winter Pudding | 465 Ferry Road, Woolston, Christchurch 8023 |
Silver | Kitchen Republic | Sunday Roast – Lamb Pie | 32 Bureta Road, Otūmoetai, Tauranga 3110 |
Bronze | Relish Rangitikei | Slow Cooked Pork with Jalapeno | 8 Milne Street, Hunterville 4730 |
経済効果は見込めるのか?
本稿の最後は当ブログらしく、お店の側に立って経済の側面からこのアワードをみていきたいと思います。
Bakels New Zealand Supreme Pie Awards はニュージーランドで最も権威のあるパイのコンペティション(というか他に類似のアワードはないんじゃないかと思われる)なので、これを受賞すると新聞やTVに取り上げられるなどメディアへの露出が増え、当ブログ同様に、個人ブロガーが取り上げたり、Xをはじめとするソーシャルメディアで拡散するなど口コミ効果も膨らむなどしてさまざまな経済的メリットが得られます。
売上の増加:
- 受賞パイの販売増加: 受賞後は受賞したパイの売上が増えると思われます。
仮に1日30個売れていたパイが受賞したことで売上20%増となったなら、受賞前と比べて1日6個、年2190個多くパイが売れる事になります。売価 1個6ドルなら売上は年間1万ドル以上の増加になります。 - 他の商品も販売増加: 目当てのパイを買うついでにコーヒーや他の商品も一緒に購入する「ついで買い」による売上が見込め、それによりファンを獲得する機会が生じます。
- 受賞による新規顧客の獲得: 一つの商品が受賞することで該当品の売上増加だけでなく、店そのものの価値が上がり、新規顧客の獲得が見込めます。
売上以外の間接的な効果
- 価格のプレミアム化 ‐ 検討の余地:受賞したパイの価格にプレミアムをつけるという選択肢が持てます。通常のパイの価格が$6であれば、受賞パイは$7に設定することが検討できるかもしれません。売上が1ドル増えればその分を新商品の研究開発費や備品購入などの投資に回すことも可能になります。
- 広告効果: 先にも述べたとおり、受賞することで各種メディアに取り上げられるので、広告費用をかけずにお店の露出を高めることができます。どの程度取り上げられるかにもよりますが、費用にして数千から数万ドルの節約効果が見込めます。
- ブランディング: ブランディングは単発では成り立たず、継続的かつ戦略的にやらないと難しいですが、受賞歴を持ちアワードのロゴを店頭のウィンドウに貼り付けるだけでも、「美味しいものを提供するお店」というイメージおよび期待値が向上し差別化になりますし、そのイメージ向上がお店としての価値向上となり、売上の増加や顧客のロイヤリティ向上につながる事が見込めます。
- ビジネス機会の拡大: 受賞して注目を集める事で新らたなビジネス機会の可能性が生じます。例えばフランチャイズでチェーン展開をしないか?カフェやスーパーへの卸売をやらないか?コラボレーションして商品開発をしないか?店を売らないか?など外部からやってくる機会と、受賞記念の限定品販売やオンライン販売強化、企業向けケータリング販売の強化、海外輸出など受賞をきっかけにした内部アクションからの機会など。
ニュージーランドに住んでいるなら誰もが一度は食べたことがあるであろうパイですが、皆さんもぜひ、機会があった際はアワード受賞パイを味わってみてはいかがでしょうか。
最後に1 Newsで報道された授賞式の様子と、最優秀賞 (Supreme Pie Awards)を受賞Slow Cooked Sumatra Style BeefのパティシエArlyn Thompson氏のインタビュー動画を貼っておきます。
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