ニュージーランドで生活している人の中には、職場で給料交渉をしても「今はビジネスが厳しい」、「みんなにも我慢してもらっている」、「他の人よりも君には給料を出している」等、様々な理由で給料が上がらない。昇給が難しい状況にある人も少なくありません。
「昇給なし」が続く企業は、コスト管理(昇給させない事で人件費を抑え続ける等)を優先することで、企業または事業主の未来を見ているのかもしれませんが、そこに働く従業員の未来が明るいとは言い難いのが現実です。
極論ですが、昇給がない企業には次のようなリスクが潜んでいると考えてよく、いずれにせよ従業員に良いことはありません。
企業として将来性が乏しい
OR
従業員の幸せを考えていない
ーーー あくまでも極論なので補足も加えておきます ーーー
本記事では、こうした企業に勤める方に向けて、ニュージーランドで「昇給なし」が生活に与える影響を具体的に解説します。
外部環境:ニュージーランド経済の変化と給与の関係
NZで生き残るマネー戦略シリーズ第一弾:「貯金の常識」でも触れたとおり、ニュージーランドでは2021年から2024年にかけて、累計約 21.3% の物価上昇が発生しました。
このインフレの影響により、給与が変わっていないのならそれは実質的な減給 なのです。
2021年の 100ドル は、2025年には 82.47ドルの価値 に目減りしているため、昇給がない場合、現在の収入では過去と同じ生活水準を維持することが難しくなります。

物価上昇とニュージーランドの給与事情:4年間での変化
前項で述べた通り、物やサービスの価格が上がるインフレが進むとお金の「実質的な価値」は下がります。
仮に2021年の年収70,000ドルで「事足りる普通の生活」が送れていたとします。
これが、もしも2025年でも年収が変わらず70,000ドルのままなら、もはや同じ生活水準を維持するのは不可能です。
なぜか?
2025年時点の70,000ドルは物価の影響で、2021年の57,708ドル分の価値にまで下がっているからです。
すなわち、12,292ドル分の購買力を失ったということになります。


年収7万ドルをみなし労働週40時間として時給換算すると1時間あたり約$33.65。
目減り後の額を時給にすると約$27.74なので1時間あたり$5.91の減給に相当しています。
IF 「うちの生活はあまり変化ない」と感じているなら
ここまで読んで、もしかすると「昇給はしてないけど、うちは生活レベルが下がった感じしないよ?」と思った方もいるかもしれません。
もしそうだとすれば、あなたの家計を担っている人は、非常に優れたマネー采配をしている人です。
一例として下記のような事を、表彰されるべき次元で努力している可能性が極めて高いです。
- 支出の見直しを徹底している
- 節約術を駆使している
- 副業などで収入を補填している
- 家計を細かく調整してしている
これらに限らず、高度な家計管理スキルを駆使して「事実上の減給」に対処し、表面上はこの4年間で21%強もの物やサービスを購入する力を失っている現実を感じさせないように調整していると考えるべきです。
そして感じさせないように調整して機能しているとはいえ、それでも購買力が蒸発している事実を無いことにはできません。
仮に表面上の生活が変わっていなくても、実際には家計や労働の負担が増しているというのが実情です。
「昇給はしてないけど、うちは生活レベルが下がった感じしないよ?」と思ったのなら、家計を担っている人への感謝と労いを全力で行うことを提案します。
「昇給なし」の現状を理解し、今後の戦略を考える
「インフレが普通」のニュージーランドにおいて「昇給なし」=減給と同義語というのが現在の状況下においての常識です。給与明細を見ただけでは気付きにくいかもしれませんが、昇給がないなら実際には、確実に家計のゆとりを削り落としています。
日本と比べてニュージーランドの人々はなぜ一つの会社に長くとどまりキャリア形成をしない傾向が強いのか?
なぜニュージーランドの人はこれまでの経験を捨てて異業種へキャリアチェンジをすることがあるのか?
自ら昇給を取りにいかず「待ちの姿勢」で給料が上がる事を待つことの真の意味を理解し、ニュージーランドで生き残るための意思決定にお役立てでください。
次回は、どうやってこの「目減り」から家計を守るかについて、具体的なマネー戦略を紹介していきます。
参照資料
極論の言葉を100%鵜呑みにしてはいけない理由も簡単に書き記しておきます。
- 企業の経営手腕・努力だけではどうにもならないケースもある:経済悪化などで国全体、業界全体が沈んでいて、値上げもできず、昇給も提示できないケースがある。
- 新規事業への投資などで、今は「耐える局面」という状況もある。
上記補足の補足
1.への補足
- もし商品やサービス価格を上げて、利益も確保しているのに「昇給なし」なら、理屈がとおらない。
- 商品価格を上げても利益が出ていない(利益減少)なら「昇給なし」も致し方ないが従業員への説明責任はあるべき。
→ きちんと説明を受けているなら「昇給なし」も致し方ない。
→ 説明がないなら従業員の幸せは軽視されていると捉えられても致し方ない。
2.への補足
耐える=昇給なし という事ですが、このような一時的な昇給凍結は起こり得ます。
この場合、企業の未来が暗いわけではないものの、企業側が説明を行い一定の透明性を従業員に対して確保しているかがキーです。通常、企業の売上や利益、資金繰りや新規事業への投資規模とその成長見通しなどは従業員に開示しませんので、だからこそ、なぜ従業員の昇給を抑えてまでその投資が必要で見込みはどうなのか?などの情報共有と同時に、成果が出たら還元する意志を従業員に見せているかどうかが重要。
ニュージーランド企業サイズ(雇用者数)
Statistics NZでは、従業員数20名以下の企業を「小企業」と定義しており、2024年の時点でNZに登記されている企業の97%がこれに該当する小企業となっています。
従業員数 | 企業数 | 割合 | 累積 |
0 | 448,233 | 73% | – |
1 ~ 5 | 102,399 | 17% | 90% |
6 ~ 19 | 43,941 | 7% | 97% |
20 ~ 49 | 11,484 | 2% | 99% |
50 ~ | 6,360 | 1% | 100% |
合計 | 612,417 | – | – |