使い捨てビニール袋 ‐ 最大10万ドルの罰金になります。なぜ?

生活

2050年には海洋におけるプラスチック量が魚量を上回る試算

ニュージーランド環境省が諮問書しもんしょ諮問書とは?)として2020年に発行したReducing the impact of plastic on our environment では、世界経済フォーラム(ダボス会議)で発表された「2050年には海洋におけるプラスチックごみの量が魚量を上回る」というショッキングな一文を記して警鐘けいしょうを鳴らしました。

その後、政府が2021年に公布した使い捨てプラスチック製品の規制Waste Minimisation (Plastic and Related Products) Regulations 2022は、2022年にその第一弾が施行されましたが、今回は第二弾として、2023年7月1日からプラスチックで作られている1回限りの使い捨て品の販売・配布・使用が法律で禁じられます。

2022年に禁止された使い捨てプラスチック製品

‐ プラスチック製のマドラー(コーヒーなどと一緒に提供していた掻き回す棒)
‐ 持ち手がプラスチック製の綿棒
‐ 分解促進剤添加プラスチック
‐ 一部のPVC製食品トレー・容器
‐ ポリスチレン製の持ち帰り用食品・飲料パッケージ
‐ 発泡スチロール製食品・飲料用パッケージ

ソース: NZ環境省 イラスト付きの資料をこちらからダウンロードできます。

今回新たに禁止になるプラスチック品は?

‐ スーパーの野菜売り場などで見かけるような薄いビニール袋
‐ アイスコーヒーやバブルティーなどについてくるようなストロー
‐ フードコートで使われているような皿やカトラリー
‐ 商品に貼り付けているようなラベル
ソース: NZ環境省

これにより多くの小売事業者や、テイクアウェイサービスを提供している飲食店、フードコートなどに出店している事業者は仕入れの見直しとコストをどう吸収していくかなど対応に迫られることになります。

既に対応済みの事業者も多いと思いますが、まだ対応できていなかったり、自社で使っているものが規制対象なのかどうかイマイチ判然としないなど、悩みを抱えている事業者に向けて、今回の規制対象にはどのようなものがあり、政府がいう「使い捨てプラスチック」の定義について知っていただくとともに、この規制の背景と2025年に見据えている使い捨てプラスチック製品の規制第三弾について見ていきたいと思います。

使い捨てプラスチック製品の見分け方

現在、お店などで使っているプラスチック製品が、今回規制される使い捨てプラスチック製品に該当するかどうかを素早く見分けるには下記を御覧ください。

ソース: NZ環境省 訳:ものかん 英語原文はこちらから、How to tell if a plastic item is single-useをご確認ください。

この表をつかっても判断が難しい場合は、ニュージーランド政府がWaste Minimisation (Plastic and Related Products) Regulations 2022で定義している使い捨てプラスチック製品の素材(下記)に該当するか確認してみてください。

Expanded polystyrene 発泡ポリスチレン (=発泡スチロール)

Plastic プラスチック
Plastic with pro-degradants 分解促進剤入りプラスチック(例:酸化型生分解性プラスチックや光分解性プラスチックなど)

PVC food tray or container PVC食品トレーまたは容器(ポリ塩化ビニルまたはポリ塩化ビニリデンを含む製品で、賞味期限の長短や生鮮・冷凍等を問わず、これらの食材を販売するために使われるトレーや容器)

硬質ポリスチレン(発泡ポリスチレン以外のポリスチレン。硬めのプラスチックカップ製品など、例えばこんなもの)

違反すると1回につき罰金最高10万ドル

全ての事業者には法規制の遵守義務があるので、今回の規制を無視するなどした結果、違法行為として起訴されて有罪になると、Waste Minimisation Act 2008に基づき最高10万ドルの罰金が課されることになります。

ものかん
ものかん

「法改正されたので、前までOKだったけど今はOUT」という認知が必要なため、よほど組織的に違法行為をしていた等、悪質とみなされない限りはいきなり罰金というのも考えにくく、行政は「警告」という名の教育アプローチをとると思われます。

「今はこれ使っちゃダメなの。わかる? 違法なんだよ。」
「これ(書類)をよく読んで、つぎ来るときまでに◯◯を改善しなさい。」
「改善できてなかったら罰金だよ?いいね??」

という具合に。

もちろん、警告や罰金を受けないに越したことはありませんので、もし不明な点がある場合は放置しておかずに、ニュージーランド環境省へ問い合わせることをおすすめします。

ニュージーランド環境省 問い合わせ先

電話:0800 499 700
Eメール:info@mfe.govt.nz

環境省が用意している通報システム

2022年の規制第一弾を施行したときから、ニュージーランド環境省は、違反の疑いがある事業者の摘発を効率的に行なうために市民からの通報を受けつけるオンラインフォームを用意しています。

ニュージーランド環境省はオーストラリアのPaperformというオンラインフォーム作成ツールを提供する会社のサービスを使っているようで、フォームはニュージーランド環境省内のサイトではなく、https://report-plastic.paperform.co にあります。

今回の規制第二弾も、このフォームを使って通報できるシステムを継続していくようなので、対応が必要な事業者の皆様は通報や警告に怯えることのないよう余裕を持って対処してください。

注意:ストローには例外適用 がある

プラスチック製のストローを提供することも不可になるのは先に述べましたが、例外として、身体障害者や健康状態に問題があり、飲み物を飲むためにプラスチックストローを必要とする人への提供は7月1日以降も下記に該当する事業に対して認められています。

使い捨てストローの継続販売/提供が認められている事業者

– Supermarkets
‐ Pharmacies
– Hospitality venues
– Health and disability services
– Online retailers

ものかん
ものかん

身体的な問題を抱える方にも気持ちよく来店してもらうためには使い捨てストローを求められた時に提供できる体制を維持するだけでなく、このような例外があることを従業員にも周知させることで、闇雲に「禁止になっている」ではなく、適宜、対応ができるようしておいてね ってことですね。

そもそも、なぜ規制するのか?

プラスチックは自然界ゴミになると分解されず、害しかないからです。
害とは、人を含む地球上の生物の体内に入り込み、蓄積されることで起こり得る健康被害を筆頭に、生態系を乱し、有害化学物質を溶出させ、国家予算をプラスチック汚染の浄化に費やす等です。

こう書くと、

「数百年で分解されるはず」とか、「今回の規制対象のポリ袋は燃やして焼却するもので、ダイオキシンや有害ガスも排出しないから問題ない」などと主張する人が一定数でてきそうです。

分解については、石油から作られた合成物で自然界で土に戻ることがないため、長い年月をかけて細かく小さな小さなプラスチック製のホコリのようになります。 つまり分解=水や土壌、空気中に漂うナノプラスチック化することと同意語だと考えて良いと思います。

我々はこのナノプラスチックを食物連鎖や飲料水、呼吸などで体内に取り込むことになりますし、小さすぎるナノプラスチックは一定量、排出されることなく体内に蓄積されます。

あなたに子孫がいるなら、その子孫に、分解できないプラスチック製のホコリをプレゼントしているのと同じですし、その子らが生きている間も、またその子らの子供にも、その次の世代の子供にも、ずっと長い年月をかけて水や土壌、空気中のプラスチック含有率を高める事になるのですから、これを「問題ない」というにはムリがあります。

一方、「焼却処理で有毒ガスも発生しない」
は製品によるものの、例えばポリ袋ならその通りだと思います。が、ニュージーランドや他の国が懸念しているのは、そういう「きちんと処理できたゴミ」ではなく、故意・過失を問わず自然界に放り出されてしまうプラスチックゴミです。

それが多すぎてヤバいと。
世界がプラスチックだらけになるぞと。
魚も動物も人もプラスチックが体内に蓄積して悪い影響がでる可能性があるぞと。

そういうことであります。

あなたも記憶にありませんか?
外で食事をしていたらビニール袋が風に飛ばされていってしまったとか、その類の記憶が。

ここに、環境保護団体WWFジャパンの「プラスチックゴミが海の中で細かくなり、マイクロプラスチックになるまでの年数」というイラストとコメントがあります。

ソース:WWFジャパン

プラスチックごみは、例えば海岸での波や紫外線等の影響を受けるなどして、やがて小さなプラスチックの粒子となります。5mm以下になったプラスチックは、マイクロプラスチックと呼ばれていますが、これらは、細かくなっても自然分解することはなく、数百年間以上もの間、自然界に残り続けると考えられています。

WWFジャパン

あなたがつかみ損ねて意図せず飛んでいってしまったり、逆に意図してそこら辺に放置したポリ袋はその後1-20年かけてマイクロプラスチックとなり、さらに年月をかけてナノプラスチックとなってあなたの子孫の体内に入っていく可能性があるという事です。

クジラの死骸を解剖したら胃からプラスチックごみが数十キロ出てきたというニュースの時は、主にペットボトルやゴミ袋、漁具等など、ほぼ原型のプラスチックごみ。

ウミガメもクラゲと間違えてゴミ袋を食べたり、マイクロプラスチックを誤飲したりというケースが後を絶たないようです。

そして2023年4月にNanomaterialsに掲載されたウィーン大学の研究チームの研究報告「マイクロ・ナノプラスチックが血液脳関門を突破する」では、マウスの口から与えたナノプラスチックは2~4時間後にはマウスの脳に到達していることが確認されたと報告されているし、1ヶ月後の2023年5月にThe Scientistに掲載されたカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究「我々人間が現在摂取しているであろうナノプラスチックと同量をマウスに食べさせるとどうなるか」によると、摂取して2ヶ月後には認知力や短期記憶の低下など、神経学的な欠陥の兆候を示したと報告され、ナノプラスチックが神経障害を引き起こす可能性についてさらなる研究が必要だと結ばれています。

プラスチックはどこまで細かくなってもプラスチックで有り続け、もはや人の血中脳の中からもナノプラスチックが見つかっています。

これを放置するわけにはいかないのです。

規制第三弾は2025年半ばを予定

以下の情報は2023年6月時点のもので最終決定事項ではありません
詳細は2023年後半に公開予定のようです。

ここで掲載している写真は想定される規制対象物の一例ですが、写真の製品が素材にPVCまたはポリスチリンを使っているかどうかは未確認です。

ニュージーランド政府は今回の使い捨てプラスチック規制第二弾を施行した後、2025年にも第三弾として、Hard-to-recycle plastics (難リサイクル性プラスチック)の規制を下記のように予定しています。

規制第三弾 対象(予定)難リサイクル性プラスチックとは?
  • すべてのPVC食品・飲料用パッケージ
  • すべてのポリスチレン製食品・飲料包装

PVC食品・飲料用パッケージとは

食品・飲料製品を入れる包装として、または販売用の食品・飲料製品を入れる目的で販売されるトレイ、容器(蓋付き、蓋なし)、パケット、ボウル、カップ、フィルム、ラップで、ポリ塩化ビニル(=塩ビ=PVC)から作られているもの。下記写真は一例。

クッキーのトレイ
弁当容器

ポリスチレン製食品・飲料包装とは

食品・飲料製品を含む、または食品・飲料製品を含む目的で包装として販売されるトレイ、容器(蓋付き、蓋なしのいずれか)、パケット、ボウル、カップで、ハイインパクトポリスチレンを含む硬質ポリスチレンから作られているもの。下記は一例。

テイクアウェイ用容器
テイクアウェイ用コーヒーのフタ

政府が提案する代替品は?

リサイクル可能な紙素材または、国が定めるType 1, Type 2 または Type 5のプラスチック素材を代替品として提示しています。

プラスチック製品については上記のマークが付いているモノのみOK。マークがついていないモノや、違う数字のモノはOUT。つまりご家庭にあるリサイクルビンに入れることができる素材の製品へ切り替えということですね。

Type 1. PET (ペット = Polyethylene Terephthalate)

Type 2. HDPE (高密度ポリエチレン = High density polyethylene)

Type 5. PP (ポリプロピレン = Polypropylene)

未対応の事業者はすぐにでも行動を

今回の規制は法律なので遅かれ早かれ対応を迫られます。まだ対応できていない事業者がいましたら、是非これを機に再利用可能なパッケージ素材への切り替え行動を起こしていただければと思います。

もしお手伝いが必要な事業者がいれば、可能な範囲でご協力できるかと思いますので、その際はこちらからご一報ください。

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