ニュージーランドのワーク(就労)ビザや永住権の取得を狙っている方は、移民局が頻繁に変える「発給条件」に右往左往することもあると思います。
条件変更の多くは、情報を小出しにして、来るぞ、来るぞ という状態にしておいて公表するか、事前情報無しにプレスリリースが出されて知るところになると思いますが、ニュージーランドの移民政策が将来どのように転じていくか、経済を見続けることで大局をみる力を養うことも可能です。
移民政策とは、ニュージーランドの外にいる人を招き入れる政策なのですから、移民者の能力だけでなく、流入してくる人々が仕事を得て生活をしていける基盤が、その時のニュージーランドにあるかどうかが重要です。
どういう事か?
一言でいうなら、
その時のニュージーランドは、どれだけ景気が良く AND/OR 失業率が低いのか?
という事で、それがビザ受給の難易度を経済的に表していると言えます。
あなたがワークビザの取得を狙っているなら
それは「外国人労働者」のポジションを狙っていることになり、外国人労働者が強く求められる時≒国の景気が良く失業率が低い時です。
国の景気が良いとは、消費者の購買意欲が高く、企業の売上・利益が増加している時だと言えます。
企業は利益が増えると、より多く稼ぐために事業を拡大し、それに応じて人材確保にも動くため、働き手の需要が高まり、職を見つけられない人の数(失業率)は低下します。
国内の人材だけでまかなえない需要の高まり(労働力不足)に応えて、国外の人(外国人労働者)を受け入れて不足を補うので、国の景気が良く、失速の影が見られず、失業率が低い時は就労ビザの発給条件の緩和が期待できます。
逆に国の景気が悪く、企業の業績が落ち込めば倒産や解雇など人材が不必要となり、求人数も減少します。
求人数の減少は、求人倍率の低下を意味し、求職者が就職できるまでにより多くの時間を要する事となって失業率を高めます。
国は失業中の求職者に該当する自国民(市民:Citizenおよび移民:Permanent Residence)を失業給付や生活保護等といった名目でサポートし、また就職が難しければスキルアップ支援などをするため、 外国人労働者を受け入れる素地がなくなり、そのような状況下ではワーク(就労)ビザ発給条件の厳格化の推進が予測できます。
従って、ワーク(就労)ビザを狙う場合、経済の視点から重要なのは、下記のような労働市場の指標を短期的にモニターして過去から未来を推し測ることです。
- 労働参加率:労働力参加率が高いほど、経済活動が活発
- 雇用率 失業率:失業率が低いほど、経済状況が良好
- 求人倍率:求人倍率が高いほど、人手不足が深刻
- 純移民者数:労働力人口が増加するほど、人手不足が解消
国勢とスキル不足解消は別と見る筋は、「必要なスキルを持つ人材が慢性的に不足している業界や、国家成長戦略に組み込まれている業界などは継続的に外国人労働者の確保が行われている」と言いますが、「ビザの発給傾向」であれば、本当に適材が国内にいないのか? いま深刻なレベルで不足しているスキルはなにか?といった深堀りが求められる=発給条件の厳格化に向けた傾向と考えておかしくないと思います。
あなたが永住権の取得を狙っているなら
国の視点に立って永住権を発給する事を考えると、ニュージーランドがあなたの生活に一定の責任を持つ(上述した失業給付や生活保護といったサポートやスキルアップ支援などもその一例)ことを意味すると同時に、あなたもニュージーランドをより豊かで住みやすい国にするための一員になる(価値を提供する)という事です。
ですから、永住権申請のハードルを経済面からモニターする際は、仕事の有無を推し測る労働市場の指標で足元を見ることに加えて、市民および永住者が持続可能で豊かな生活を享受できるかを測る人口動態と財務指標そして、経済状況を反映させる、その時の社会的な「空気」があります。
- 人口動態: 自然増減数(出生と死亡)や出国者数:出生が低い・NZ人および永住者が出国すると将来労働参加率が下がり経済活動が低調になる。ため移民の補充が求められる。
- インフラ整備・建築着工許可件数: 移民の受け入れ体制(住宅供給と都市開発:ライフライン、警察、消防、病院、学校等)の有無、人口増に伴う諸法律の改正。
- GDP成長率:経済不振による雇用減少=移民の受け入れ制限につながる可能性(逆に移民を受け入れることで経済活動を復調させたり労働力の拡大に貢献させるなど、新たなビジネスや産業の創出促進などの面もあり複合的に経済指標を見る必要有)
- 移民に対する社会的な不満:真偽とは別に、例えば移民の増加が住宅価格の上昇や社会格差の拡大につながっていてる。犯罪が増加しているなどと考える不特定多数の人の声が不満となって移民の門戸を狭めるキッカケになり得る。
まとめ
コロナパンデミック収束後に圧倒的人材不足を起因とするワークビザ/永住権の「バラマキ」とも言える状況は極めて例外的でした。
いくつかの経済関連指標を大まかに並べて2023/2024年を比較しただけでも、ニュージーランド経済の減速が容易に見て取れ、ニュージーランドが大盤振る舞いでワークビザ/永住権を発給する必要性が薄れていることが容易に見て取れます。
2023年 | 2024年 | |
失業率 | 3月 3.3% (過去最低水準) | 3月 4.2% (上昇傾向) |
求人広告数 | 3月 過去最高水準 | 3月 減少傾向 |
労働力不足率 | 深刻な労働力不足 | 改善傾向 |
移民数 | NZ史上最多 | 減少傾向 |
経済成長率 | 3月 5.2% (高い成長率) | 3月 3.5% (減速傾向) |
むろん、ニュージーランドのような人口が少ない国では、国の発展のためにも移民受け入れは不可避です。
今後も移民への門戸は常に開かれ続けることに間違いはないでしょうが、開かれる門の幅は、経済や政策の変化によって、必要なスキルを持つ国外の人材を的確に補充するため頻繁に変動します。
ワークビザと永住ビザの発給傾向は、国の経済発展と持続性に影響を与えるので、将来のビザ申請に備えて、ニュージーランドの経済と雇用状況を把握し、ビザ申請のタイミングも含めて検討することが、状況に応じた賢明な選択を可能にします。
申請準備が整った時に、移民局(大臣)によるビザ申請条件の変更が発表されてしまい、無駄になるリスクを和らげるためにも、ニュージーランドの経済と雇用の状況を見て国の状況を把握しておくことをお薦めします。
最後に:ビザの取得がゴールであってはいけない
ニュージーランドに住むことを考えた時、ワークや永住ビザを取得しないと地に足のついた生活をスタートさせるのが難しいため、ビザ取得に気持ちが集中してしまいがちなのは、ある程度、仕方のないことだと思いますが、ビザ取得はゴールではなく、スタートであることを心に留めておくことが重要という事をお忘れにならないよう進言させていただきます。
下記はニュージーランド在住で、経済、仕事、社会生活についての考えをXで多く共有されているコブさん(@I_LOVE_ROTORUA)による、海外移民でよくある間違え!と題した投稿。
たしかにビザ取得がゴールになってたかも。
と感じた方も、そうでない方も、ご一読されることをお薦めします。
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