儲かるの? ニュージーランドで売られているご当地モノポリー

お金

世界中で愛されているボードゲームはいくつもありますが
その中でもモノポリーは不朽の名作と言っても
否定する人はいないだろうほどに人気のゲーム。

実に様々なエディションが販売されており
ニュージーランドでは(他国も同様だと思いますが)
ニュージーランド限定、数量限定のご当地エディションも一部で販売されています。

名作ですからニュージーランド版 があるのは解せるものの
それでも人口550万人の国で地方版が販売されていることには驚きを隠せず、
昨年12月にはNaoko@ニュージーランド さんがXで発信された
クライストチャーチ版発売のポストにおもわず下記のようにコメントしたほど。

もちろんローカルの方々をはじめ
その地に思い入れのある方にとって朗報ですけども、

製造販売側の視点では
これは売上目的じゃないよね。
と思いコメントしたものです。

そして
そんなコメントをした事もすっかり忘れていた昨今、
今度はダニーデン版が存在していることを知り
「どれくらい売れる算段なの !?」「世帯数いくつなの!?」と再度驚いたわけです。

少し検索してみたら
クライストチャーチやダニーデン版以外にも
多くの地域バージョンが存在していることがわかり、

また日刊新聞紙 「Otago Dairy Times」 エディションなるものや、
「ニュージーランド航空」 エディションなるものも見つけてしまいました。

ここに至り
これら限定版モノポリーは製造販売元のHasbro社がライセンス販売しているもので、
同時にモノポリーゲームそのものが広告媒体なのだと確信しました。

そう考えないと
100歩譲ってニュージーランド航空エディションは有り得るとしても、
日刊新聞紙 Otago Dairy Times (以下 ODT) エディションは説明がつかなすぎる。
これが広告や取引先にギフトするための販促ツール等でないなら何なのか?

だってこんな感じだそうですよ。

https://www.odt.co.nz/news/dunedin/prime-real-estate-offer-game

バラエティ豊富で様々なエディションがあるモノポリーの中から
あえてODTエディションを選ぶ人はかなりレアじゃないかと。

Otago Dairy Times 半端ないって。そんなんできひんやん。普通

ゲーム上の通貨がODTに変わり、
チャンスやコミュニティカードも「Otago Dairy Times」と
「Allied Press(ODTが所有する独立系メディア)」になっているようです。

これを地方バージョンに置き換えて考えてみると

モノポリー上であつかうお金に適用させる通貨単位の命名やロゴ、カードの内容
すべてが広告スポットとして売り出せるだけでなく

各マス目もストリート名ではなく
アトラクション名や事業名を入れるといったことや
各種駒やホテルなどのカスタマイズ

ボードゲーム中心部や収納する外箱の外装に
それら広告主が視認できるようにデザイン配置するなどして
収益を図ることができるはず。

そしてこれをパッケージ化して企業や自治体に営業をかける。

クライストチャーチさんにはおかげさまでご好評いただいています。
ダニーデンさんもモノポリーを通じてプロモーションされてはいかが?

といった具合に。

この仮説が正しいとするなら、
Hasbro社と契約した自治体が
地域の事業者に向けてモノポリー広告の出稿募集をかけてるのでは?

と思い

自治体名 + Monopoly + PDFファイル
というふうに的を絞って検索してみたら、
本当に資料が見つかりました。

「ノースランド エディション」

資料には2024年のクリスマス商戦開始時期に発売予定としてあります。
これまさにタイミングは今じゃないですか!

販売されていないところをみると
広告が集まらなかったのか、
それとも近日中に売り出されるのかな。

いずれにせよ、ノースランド エディションの広告主を募る資料が
ニュージーランド商工会議所のノースランド支部にあたる
NorthChamberのサイトに置いてありました。

画像は広告資料から抜粋

上記の画像はおそらく、
Hasbro社が営業時に使っているモックアップの一つで

ノースランド版モノポリーの顔として
外箱に御社のアクティビティ画像をドーンと載せましょうよ!

なんて感じで広告営業していたかもしれません。

資料によると生産数は5,000ユニットを予定していて
広告は当然ながらノースランド企業のみ出稿可能。
広告形態は全8タイプあり、価格設定はNZ$750~$4,000+GSTだそう。

$750+GSTの広告だと、
コスト単価は1ユニットあたり15セントとなるので
価格だけ見ると案外安いね。と思った方も居るかと思います。

どんな広告スポットなのか?
$750の広告はモノポリーのゲーム中に使われるコミュニティまたはチャンスカードの1枚に
社名なりアクティビティ名なりが下記のように入れられるのだそうです。

You have won secondprize in the Marsden Maritime Holdings Fishing Competition, Collect N10.

$750の広告をうつ価値はありそうですか?なさそうですか?
広告はブランド認知度の向上や、新市場進出の足がかりを作っるためだったり、
企業としての信頼構築や顧客基盤の拡大のほか、もっと人間味のあふれる部分として
企業間または担当者間の付き合いなどもありえるので判断の分かれるところでしょう。

ちなみに最高値$4500+GSTの広告だと、ゲーム中に使われる紙幣にロゴを入れられるそうです。

広告があつまれば集まるほど
自然とよりローカライズされたモノポリーに仕上がる
という事でもありますね。

他にもどんな広告タイプがあるのか興味を持たれた方は、こちらからPDFの閲覧・ダウンロードが可能なので、みてみると面白いかも知れません。

ノースランド エディション5,000ユニットを発売した場合の
収支について簡単に試算してみました。

試算 項目収入支出
直接販売 @$69.95 x1500ユニット104,925
流通販売 @42 x3500ユニット147,000
広告収入 30枠 x 平均$200060,000
人件費 5ヶ月ぶん30,000
デザイン制作費3,000
ライセンス契約や法務手続き1,000
ユニット製造費 @$20100,000
物流費43,000
マーケティング費21,000
ライセンス使用料 ユニット売上の10%25,193
311,925223,193
利益88,723
利益率28%
単位:NZドル
ものかん
ものかん

上記の試算は小売価格や流通経路、ライセンス使用料や製造費、物流費など不確定要素が多いことに加えて、全5,000ユニットが完売する前提の大雑把なものなので、妥当性については議論の余地も大いにあることも書き記しておきます。

上記の試算をもとに、固定費と変動費を下記のようにして損益分岐点のユニット数を計算したところ、3,584ユニットと算出できました。

固定費変動費
人件費$30,000
デザイン制作費$3,000
ライセンス契約や法務手続き$1,000
物流費$43,000
マーケティング費$21,000
ユニット製造費$20/ユニット
ライセンス使用料を
ユニット製造費に加算
直節販売ユニット:$24.995
流通販売ユニット:$22.2

総固定費:$98,000
平均販売価格:$50.385
平均変動費:$23.038
損益分岐点のユニット数 計算は$98,000 / ($50.385 – $23.038) となり、
この解は3,584ユニット(全体の72%)となります。

つまり今回の試算においては、5,000ユニット中、3,584ユニット(製造したユニットの72%)売らないと利益が出ず、赤字になるということですね。

では次に何個売れそうか? を簡単に計算して見込みをつけてみます。

計算に使うのは2023年の国勢調査を公表しているStatsNZの下記データ1つ。

ノースランドの世帯数: 71,778

この事実1点のみを元に以下のように仮定して世帯数を計算してみます。

  • 71,778世帯のモノポリー所有率30%
    • 所有している世帯: 30%
    • 所有していない世帯: 70%
  • モノポリー所有世帯が「ノースランド エディション」を購入する確率: 6%
  • モノポリー非所有世帯が「ノースランド エディション」を購入する確率: 5%
ノースランド世帯数:71,778所有している世帯所有していない世帯
モノポリー21,533世帯50,245世帯
ノースランド エディション 購入1,292世帯2,512世帯

今回は生産ユニット5,000に対して販売見込みが3,804ユニット。
販売見込みは損益分岐点のユニット数3,584を220ユニット上回り
利益(黒字)を計上できる見込みとなりました。

ただし、上記の計算は極めて単純なものなのでパーセンテージの根拠も説得力を持たせるのは難しいです。あくまでも大雑把に計算したら今回はこんな数字になりました程度で見てください。

実際には対象世帯ごとに細分化して購入確率の設定や通常版モノポリーとの販売価格差による影響評価、限定生産の希少性評価、他のボードゲームとの競合優位性、実際の流通チャネル等を考慮して見込み販売ユニット数を計算していきますが、そういった深いところまでどうやって落とし込んでいくのかは、本稿を執筆している私、ものかんの本業である新規事業立ち上げ・拡大支援に関わる部分になってきますので、ここでは出し惜しみさせてください 笑

ご当地版を販売して時が過ぎた際に自治体がこれを「成功」と評価できれば、自治体はモノポリーゲームを広告メディア媒体と認知して数年毎に広告主を募ることも可能ですし、地域によっては地域の各種スポーツチームなどとコラボレーションしたエディションも検討可能かと。

また自治体等に営業をかけるHasbro側のニッチ戦略の視点で言えば、ニュージーランド色をより強く引き出せる以下のようなエディションも検討できるでしょう。

  • マオリ(文化)エディション
  • 国立公園やトレッキングコース エディション
  • ワイン産地 エディション

記事を書き終えて、さぁアップするか。というタイミングで、オセアニア圏におけるモノポリーゲームのライセンス販売は「Hasbro社が直接やっているわけではない」事がわかりました。。。

なので編集後記の形でここに記しておきますが
オセアニア圏ではWinning Moves Australia Ltd社がHasbro International Inc社からゲームのライセンス販売権を取得してカスタマイズ版、ライセンス版の製造・販売を手掛けているそう。

https://winningmoves.com.au/games-archive/classic/

豪州企業なので豪州のものが多いですが、サイトには同社が手掛けたカスタマイズ版モノポリーの一部が表示されていて、はじめからこれを見ていれば、あれこれ想像を働かせることなく、もっとスムーズに書き終えてたのに。と思える様々なご当地版や企業版などが閲覧できます。

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