続報 ニュージーランドのウニ輸出プロジェクト

経済

以前、ニュージーランドでKina (キナ。マオリ語でウニ)を陸上養殖し、身入りを増やして価値を向上させたうえで、日本をはじめとする東アジアに売り込むキナノミクスプロジェクトについて記事を書き、プロジェクトの全容と、背後にいる武田ブライアン剛氏が率いる日本企業、ウニノミクス株式会社についてご紹介しました。

そのキナノミクスから、今後数ヶ月のうちにニュージーランド産ウニを出荷開始できるかも知れないという発表がありましたので、続報をお知らせします。

ニュージーランドで異次元のキナが爆生か?

キナノミクスプロジェクトの主宰であり、ニュージーランドの環境、経済、社会の持続可能性を促進するコンサルティング会社EnviroStratでプロジェクトを担当しているJohnny Wright氏は、「最終製品は私たちが知っているニュージーランド産のウニではなくなる」とコメント。つまり、味、一貫性、見た目が従来品とは一線を画す、異次元のキナが爆生すると言っています。

しかし、世界のどの国よりもウニを食し、評価も厳しいハズの日本人としては、素直に期待を膨らませて良いのか、ほんまでっか?と疑うべきか迷いどころです。

シェフとシーフード業界関係者による品評会

キナノミクスプロジェクトには、最終的に新たな輸出産品を確立させて商業ルートに乗せるという大きな目標があるので、当然、自己満足で終わることはありません。

オークランドにあるSanford and Sons Auckland Fish Marketで開催されたシェフとシーフード業界関係者による品評会で、キナノミクスプロジェクトで肥育されたウニの「香り」「視覚的特徴」「味」「食感」「後味」などを評価したようで、EnviroStratのCEO Nigel Bradlyはウニの卵の大きさ、味、色は、昆布で育ったものに比べて改善されており、全体的に好意的なフィードバックが寄せられたとコメントしています。

東アジア市場をターゲットにしてるんだから、当然日本人も品評会に参加してるよね?と思ったら、やはり、参加してました。

参加したのはオークランドで受賞歴のある日本食レストランのオーナーシェフ

評価を行うシェフの1人として、オークランドで受賞歴のある日本食レストランCocoroの共同経営者にしてシェフであり、また日本の農林水産省から2021年度の「日本食普及の親善大
使」の一人に任命されている德山真人氏が参加されたようです。

そして同氏の評価は

「まだ道半ば」

手厳しいともとれるが、ウニは北海道産が世界最高峰と評価される中で日本食材を知り尽くす一流シェフとして、忖度なしの真っ当な評価だったと思いたい。

ウニの品定めは伝統的に「風味」「色」「鮮度」の3つに分けられており、最高級品は鮮やかな黄色や黄金色をしており、甘味があり、しっかりとした食感がある。

そのうえで、徳山氏はキナノミクスのウニについて「色」は一貫性があると評価。
しかし、日本のウニに見られるような濃厚でクリーミーな、さらにはナッツのような「甘み」と、海を想起させる「風味」がまだ足りないと評したようです。

寿司や刺身のみならず日本の料理文化において重要な「磯の風味」を、いけす養殖のウニに求めるとは妥協知らずのプロ!厳しいぃぃぃ。

とはいえ、世界最大級のウニ市場、日本に受け入れられるレベルに到達するためには、肥育方法、餌の選択ふくめ養殖プロセスの継続的な改善が必要ということなのか、それとも一般消費者なら合格ライン。プロの料理人が使うにはまだ道半ばなのか。

ぜひキナノミクスのウニが市場に流通した際は試してみたいものです。

ところで、商業化のための安定供給は可能なのか?

Ministry of Primary Industry(一次産業省:農業、林業、漁業、食料品製造業などの一次産業を担当する省庁)の投資プログラムディレクターSteve Penno氏は、「厳しい決断になるが、ウニの天敵であるクレイフィッシュを禁漁とする必要がある」という考えを持っているようです。

ニュージーランドでは海の生態系に重要な役割を果たしている海藻の森をウニが食い荒らして砂漠化させてしまう食害(磯焼け)がたびたび生じているため、国は生態系を維持するための対策としてウニの捕獲や移植をして駆除しているくらいなので、そういう発言にもなるのでしょうが、

同氏は投資プログラムディレクターなので、彼に禁漁を推進させて海の生態系バランスを戻して砂漠化を防ぐという職務はないはずです。

むしろ、彼の発言は、キナノミクスへの投資が大成功してウニの養殖と輸出が盛んになったとしても、ウニの個体数を減らして食害(磯焼け)を防ぐ効果的な手段にはなり得ない事を物語っています。

という事は、幸か不幸か、当分の間は、ウニの爆発的に膨れあがっている個体数により、収穫できる野生のキナには事欠かないといえるようです。

気になるお値段はいくら?

NZ Heraldの元記事によれば、東アジアでは100gあたり最大$40の値がウニについているとのこと。

日本の場合は、まず国産か外国産かで価値が異なります。そして日本で流通している外国産ウニとして有名なのはチリ産。そのチリよりも投資(機械やITを導入)して人件費を下げない限り、価格面で競争力を持つことは難しいような気がしますし、品質や味で国産に勝負を挑むのも、日本人シェフからのお墨付きは貰えず、「まだ道半ば」と評されたからには今のところまだ厳しいでしょう。

またキナノミクスのウニは、流通が始まっていないので当然ブランド力もなく、またNo.1やOnly 1を謳えるマーケティング要素もないハズなので、明確なマーケティングコンセプトとそれに当てる予算がない限り最大$40の値で売るための道はまだ先の先。

一方で、ニュージーランド国内市場に流通している既存のウニ製品はおよそ100g NZ$20前後。

画像左:150gの価格 画像右:200gの価格

キナノミクスプロジェクト担当者Johnny Wright氏が、「最終製品は私たちが知っているニュージーランド産のウニではなくなる」とコメントしていることから強気な価格設定になることも予想されますが、需要と供給のバランスなので、どうなるでしょうか。楽しみです。

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