雲丹うにウニ!220万ドル プロジェクト

経済

雲丹うに(以下、ウニ)の英名はSea urchinですが、ニュージーランドではマオリ語でウニを指すKina(キナ)と呼ぶのが一般的。

そのウニを海中ではなく、陸上養殖(いけすをイメージしてください)し、身入りを増やして価値を向上させたうえで、需要が供給を上回っている日本をはじめとする東アジアに売り込むプロジェクトがニュージーランドで2022年からスタートしています。

プロジェクト名 「キナノミクス」

ニュージーランドでは海の生態系に重要な役割を果たしている海藻の森をウニが食い荒らして砂漠化させてしまう食害(磯焼け)がたびたび生じているため、国は生態系を維持するための対策としてウニの捕獲や移植をして駆除しているくらいなので、このキナノミクス プロジェクトには高い期待が寄せられています。

ものかん
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補足すると、ウニはニュージーランドだけでなく日本を含め多くの国でも駆除対象になっています。繁殖力が強いうえに、新しく芽吹いた海藻を食べて藻場の再生を阻むどころか食い尽くしてしまう。さらに海藻が乏しくなった岩場で育つウニは身入りが悪く売り物にならないという悪循環を作り出してしまうのでたちが悪い。

海藻を食い尽くすウニを捕獲し、身入りが増えるよう養殖して高値で東アジアに売るというビジネスモデルを確立できれば、前述したとおりニュージーランドは、海藻の森減少に歯止めをかけて豊かな海を維持するという環境的利益だけでなく、新たな水産輸出産業の創造であり雇用の創出にもつながります。

そのためニュージーランド政府もMinistry for Primary Industry(MPI: 日本の農林水産省に相当) のSustainable Food and Fibre Futuresという投資プログラムを通じてキナノミクスに2年間で約100万ドルの出資をおこなっています。

3社合同による試験と役割

キナノミクスプロジェクトは以下の3社が連携しウェリントンの試験場で行われています。

EnviroStratニュージーランドの環境、経済、社会の持続可能性を促進するコンサルティング会社。プロジェクト主宰
Ngati Porou Seafoodsギズボーンで数百人規模の雇用を生み出し持続可能な漁業に取り組んでいる水産会社。日系水産会社とのパイプも太く、マオリ系でニュージーランド最大の水産会社Moana New Zealandの株も7%所有
Urchinomicsオランダに本社を置くウニ畜養事業者で、同社が開発した畜養手法と専用飼料をプロジェクトに提供。

計画の概要はEnviroStratがプロジェクトの計画策定から実施・運営・評価する役割を担い、Ngati Porou Seafoodsが海藻を食べ尽くして栄養失調状態になっているウニを海中で捕獲してウェリントンの試験場に送り、ウニの畜養手法とプロジェクトの成功に不可欠な専用飼料をUrchinomicsからを得て8-12週間かけて肥育したものをNgati Porou Seafoodsの流通網にのせて輸出・販売していくというもの。

ニュージーランドのウニ産業:実は世界ランク入りするほどの生産国!

ネットをみると、サイトによって記載されているウニの生産高にブレがあるため、正確に世界何位とは言い難いものの、どのサイトもニュージーランドを世界で8-10番目の生産国だという順位付けにしています。

国連機関のFood and Agriculture Organization(FAO:食糧農業機関)がネット上に公開しているFishStatで調べても世界7位の生産高という結果になっています。

さすが海洋国家ニュージーランド!

ものかん
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FishStatでは中国の生産高が予測値200トンで全体の15位となっていましたが、複数のサイト情報を並べてみると、およそ10,000~15,000トン生産されているという認識が一般的なようです。

正確を期するなら自国の担当省庁に聞くのが一番ということで、Ministry for Primary Industries (MPI: 第一次産業省) で調べてみると、同省が2022年5月に発表した漁業評価に2021年のニュージーランドウニ生産高は990トンだったとの記述がありました。

余談ですが、同資料によると、商用漁業海域 SUR7A と呼ばれる南島東北端の Marlborough Sounds で採れたウニはおよそ142トンで、殆どがニュージーランド国内消費とのこと。

全体での国内消費量はもう少し多くなるでしょうが、目安として142トンを国民500万人で割ると、ニュージーランドでは少なくとも年間1人当り、大さじ2杯分相当(約30g)のウニを食べている計算になります。

そして、どのサイトを見ても生産トップ4として挙がっていたのがチリ、ロシア、中国そして日本だったので、日本の農林水産省もあたってみました。

2023年5月末に発表された2022年海面漁業生産統計調査から、日本は天然物と養殖物のウニあわせて6,900トンを生産したということが分かりました。

ろ・・ 6,900トン!!

ウニ生産高世界1-4位圏内の日本が6,900トンで、8-10位圏内に入っていると思われるニュージーランドが990トン?

日本の人口とウニ好き具合を考えれば驚きも和らぎますが、それにしてもニュージーランドと差があり過ぎる。
しかも日本の場合、輸出は少量でほぼ国内消費なんじゃないの?と思っていたら、世界最大の水産会社マルハニチロ株式会社のウェブマガジンに次のような記述がありました。

水産通信社という日本のメディアが出版販売している「水産物 パワーデータブック」の2021年版によると、2019年ウニ類の日本の水揚げ量は7,880トン。海外から日本に輸入されたウニは11,438トンだったそうです。

日本に住んでいる人、ウニ好きすぎ!

2019年の生産高+輸入高合計19,318トンを日本の人口1.266億人で割ると、日本では1人当り年間155g食べている計算になり、ニュージーランドの30gと比べて約5倍食べているという結果に。たしかに日本では、お寿司や刺し身を食べる機会がそれなりの頻度でありますよね。

ニュージーランドも世界的にはウニ生産上位国ということが分かりましたが、上位4カ国との間には大きな差があるようです。それをキナノミクスで生産高が増やし、輸出だけでなく、ぜひとも国内流通量も増やしてもらえることを期待してしまいます。

それにしてもキナノミクスって、どこかで聞いたようなネーミング

売り込み先の本命が日本だからアベノミクスに寄せました?

とか思って調べてみたら、このキナノミクスプロジェクト自体が、グローバル規模で描かれている大きな絵の中の1つで、全体の仕掛人は在ノルウェーの邦人、武田ブライアン剛(バックグランドがユニークなので興味のある方は御覧ください)という方のようです。

武田氏が率いている会社は、急速にグローバル展開している会社であり、また今回のキナノミクスプロジェクトに参画しているUrchinomics(オランダ本社)であり、日本ではウニノミクス株式会社として法人登記されている会社なのです。

よく見れば、UrchinomicsもSea Urchin の”Urchin”ですね。

沿革をみると2012年から試運転をはじめた会社のようで、時期がアベノミクスと丸かぶり。そういうことなのでしょう。

海藻を食べ尽くし、海を砂漠化させてしまう高級食材ウニを駆除(捕獲)して、いけすで育てて売る一方、海藻の森を再生させることにも注力することで海洋資源を豊かに保ち、またカーボンクレジット認証を受けることで企業のCO2排出量の削減をカーボンクレジットの購入で賄うといった投資対象としても優良な企業という立ち位置で、まさに三方良しの企業だと言えます。

キナノミクス。頑張って欲しいですね。

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