在ニュージーランド日本人の収入について掘り下た記事「クローズアップ 収入 ニュージーランドで暮らす日本人のお金事情 -国勢調査を紐解く-」のスピンオフ記事「比較 在ニュージーランド日本人と他国籍者」Part 3 労働人口編です。
過去記事はこちら
在ニュージーランド日本人との比較対象6ヵ国籍
今回も「比較 在ニュージーランド日本人と他国籍者」で比較対象とした6カ国籍を在ニュージーランド日本人と比較していきます。
では、さっそく見ていきましょう。
国籍別 非労働者人口 & 労働者人口
はじめに言葉の定義から。
労働者:生産年齢人口(働ける年齢15-64歳の人口)のうち、雇用形態に関わらず就業者と失業者を指します。(失業者:有給の職には就いていないが就労可能であり、積極的に求職活動を行っている人)
非労働者:就業も失業もしていない人(例:不労所得のみで生活する投資家や、すでに資産を形成して就業の必要がない資産家、学生、主婦/主夫、身体または精神的障害のため就労不可、退職・リタイア、いわゆるニートなど)のことを指します。
海外に移住を希望する人々は、一般的に、経済的、精神的、政治的な安定に加え、子供がいるなら良質な教育環境を求めることが多いです。
そしてニュージーランド在住の友人・恋人・パートナー等がいない限り、移民はほぼ全員がゼロからの仕切り直し人生になるため、移住後は早急に収入源を確立しないかぎり出費ばかりで、経済的・精神的な安定が難しく、生活の向上も難しいので、一部の富裕層を除く大多数の人にとってニュージーランドに移住したら職につくことは極めて重要なはずです。
またニュージーランド政府の視点では、移民の受け入れは主に労働力の補充、技術や専門知識の輸入であり、経済の活性化という側面があるため、労働力を提供しない非労働者でも歓迎されるのは、主に富裕層や、将来のある子どもたちとその親という事になるかと思います。
という前置きをしたうえで、
移住者の中で働き盛りとなる生産年齢人口(15-64歳)に該当する労働者と非労働者に分けた人口構成がこちらです。
在NZ | 日本人 | 欧州系 NZ人 | 中国人 | 韓国人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 |
生産年齢人口 | 12,450 | 1,845,580 | 175,598 | 27,417 | 12,281 | 5,645 | 11,603 |
内訳:非労働者 | 4,358 (35%) | 588,740 (32%) | 69,888 (40%) | 9,761 (36%) | 3,218 (26%) | 1,569 (28%) | 3,055 (26%) |
内訳:労働者 | 8,092 (65%) | 1,256,840 (68%) | 105,710 (60%) | 17,657 (64%) | 9,063 (74%) | 4,076 (72%) | 8,549 (74%) |
非労働者と労働者の割合に、アジア3か国籍と欧米3か国籍とで明らかな違いが見られます。
また日本人単体では、比較対象6カ国の平均を上回る非労働者率であり、平均を下回る労働者率という結果になっています。
非労働者 | 労働者 | |
日本人 | 35% | 65% |
欧州系NZ人 | 32% | 68% |
6カ国籍者平均 (欧州系NZ人除く) | 32% | 68% |
アジア3カ国籍者平均 (日本/中国/韓国) | 37% | 63% |
欧米3カ国籍者平均 (ドイツ/ロシア/アメリカ) | 27% | 73% |
非労働者
アジア3か国籍者は15-64歳の非労働者が、欧米3か国籍者と比べて平均10%も多いことが分かります。
在NZ | 日本人 | 欧州系 NZ人 | 中国人 | 韓国人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 |
内訳:非労働者 | 4,358 (35%) | 588,740 (32%) | 69,888 (40%) | 9,761 (36%) | 3,218 (26%) | 1,569 (28%) | 3,055 (26%) |
平均するとローカルの欧州系NZ人より5%も非労働者数が多いアジア3か国籍者。
よもや「うちの国に来て何やってるの?」という心象にもなりかねない数値です。
一方で、アジア3か国籍者とは逆に、欧米3カ国籍者は欧州系NZ人よりも軒並み非労働者の割合が低いことが分かり、労働力の補充と技術や専門知識の輸入を求めているであろうNZに貢献していることを示しています。
アジア3か国籍者は学生が多いのか?と考えて、「Part 1 国籍別 在住者と年齢編で見た年齢別人口」を参照してみましたが、そういう事ではないようです。
在NZ | 日本人 | 欧州系 NZ人 | 中国人 | 韓国人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 |
15–29歳 | 4,377 (24%) | 548,084 (18%) | 61,093 (25%) | 9,691 (27%) | 4,220 (25%) | 1,609 (21%) | 3,570 (22%) |
非労働者の割合が高い理由が学生数でないなら、次に想像できるのは専業主婦/主夫の数です。
労働者人口の内訳 フルタイム・パートタイム・失業中
在NZ | 日本人 | 欧州系 NZ人 | 中国人 | 韓国人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 | 7国籍 割合平均 |
労働者人口 | 8,092 | 1,256,840 | 105,710 | 17,657 | 9,063 | 4,076 | 8,549 | |
内訳 フルタイム | 5,017 (62%) | 913,562 (73%) | 75,507 (71%) | 11,872 (67%) | 6,411 (71%) | 2,896 (71%) | 6,365 (74%) | 70% |
内訳 パートタイム | 2,602 (32%) | 284,219 (23%) | 22,828 (22%) | 4,579 (26%) | 2,125 (23%) | 835 (20%) | 1,765 (21%) | 24% |
内訳 失業者 | 473 (6%) | 59,059 (5%) | 7,375 (7%) | 1,206 (7%) | 528 (6%) | 344 (8%) | 418 (5%) | 6% |
労働者の割合が総じて高かった欧州3カ国籍者はフルタイム就労率でも70%を超えているのに対して、アジア3か国籍者の中で70%を超えていたのは中国人のみ。日本人と韓国人は60%台にとどまっていますが、注目は日本人のパートタイム率。
他国籍者を大きく引き離す数値になっており、働き盛り年齢の日本人はパートタイムのみで生活していける環境を持つ人が多いというふうにも見えます。
このパートタイム率が高い日本人の傾向には、学生や子育て中・介護中・起業準備中など様々な理由が影響しているでしょうが、それらは、他の国籍者にも当てはまること。
「就労」に関する日本人の文化やメンタリティにおいて、未だに男性が外で働き、女性が家事に従事するといった性別役割分担が根強いことも考えられる事から、「家庭と仕事の両立を図るために、パートタイムで働く日本人女性が多いのではないか?」という視点が浮かびます。
私の主観ながら、日本では「男性が外で働き、女性は家庭や子供の教育に多くの時間とエネルギーを費やす」ことが普通とされた時間が非常に長く、女性に働いてほしくない男性と、将来の夢が専業主婦だという女性の関係が長きに渡り見らていたと思います。
これに該当しない人々がたくさんいることや、変化しつつある事も承知ですが、家事育児の分担不平等や、賃金不平等など様々な理由から、該当する人のほうが多いと感じますし、日本人女性とパートナーや婚姻する人は、日本人男性に限らず、男性が外で働くから女性は家庭に専念してくれという考えを持っている、または家庭に専念したいという考えを持っている女性と付き合う中で自身もそう考えるようになっている人が多いように感じます。
そこで、在ニュージーランド日本人の男女別労働人口を探ってみました。
在ニュージーランド日本人の男女別労働人口
在ニュージーランド日本人を男女別に分けた数字がこちら。
日本人 | 総数 | 男性 | 女性 |
在NZ人口 | 18,141 | 6,849 | 11,295 |
生産年齢人口 | 12,450 | 4,063 | 8,387 |
労働人口 | 8,092 (65%) | 2,814 (69%) | 5,278 (63%) |
非労働者人口 | 4,358 (35%) | 1,251 (31%) | 3,125 (37%) |
ソース:2018年 ニュージーランド国勢調査
人数は女性が圧倒的に多いようです。
生産年齢人口数に至っては男性の倍以上の数の女性が居ますが、労働人口を割合で見ると、男女差は6%にとどまっており、性別による大きな差は見受けられません。
次に、「パートタイムで働く日本人女性が多いのではないか?」という 仮説の正誤をみるために、労働人口 男:2,814人 女5,278人をさらにフルタイム・パートタイム、失業中に分けた表がこちら。
日本人労働人口 | 男性 | 女性 |
フルタイム | 2,093 (74%) | 2,920 (55%) |
パートタイム | 558 (20%) | 2,047 (39%) |
失業中 | 163 (6%) | 311 (6%) |
ソース:2018年 ニュージーランド国勢調査
労働人口の割合差は6%と限定的だったものの、勤務形態ではパートタイムの男女差割合に倍の開きがあることが分かり、「パートタイムで働く日本人女性の割合が多いのではないか?」との仮説が正しいことを示しています。
また、「比較 在ニュージーランド日本人と他国籍者 Part 1 国籍別 在住者と年齢 編」で調べた年齢別の人口割合をみると、日本人は目を離せない年齢の子供の割合が比較対象と比べて格段に高いことから、パートタイムで働く人の割合も多いのだろうことが推測できます。
在NZ | 日本人 | 欧州系 NZ人 | 中国人 | 韓国人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 |
0–14歳 | 5,058 (28%) | 588,615 (20%) | 48,667 (20%) | 6,286 (18%) | 3,279 (19%) | 1,457 (19%) | 3,168 (19%) |
余談ですが、「男性よりも女性人口が多い」のは在ニュージーランド日本人にだけ見られる特徴的なことではありません。
今回比較対象とした各国の男女人口割合の差をまとめた表を用意しました。
数値が0なら男50%女50%で男女の割合に差がなく、数値が大きいほど男女の割合差に開きがある事を示し、また赤い数字は女性の割合が男性より多いことを示しています。
この表を見ると、移民ではない欧州系NZ人を除いたすべての国籍で女性の移民者が男性を上回っているのが分かります。
女性のほうが男性よりも国を越える引っ越しや新天地での定住に柔軟性を有しているのかもしれません。
ちなみにこの表から、日本人の場合30-59歳にかけての男女差がどの国籍者よりも強く大きく開いていることもみてとれます。興味深いですね。
男女人口 割合差 | 日本人 | 欧州系 NZ人 | 中国人 | 韓国人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 |
15–19歳 | 3.8 | 0.5 | 1.0 | 1.0 | 0.9 | 0.9 | 0.9 |
20–24歳 | 1.8 | 0.4 | 0.5 | 0.6 | 1.8 | 1.8 | 1.8 |
25–29歳 | 1.0 | 0.2 | 0.1 | 0.9 | 2.1 | 2.1 | 2.1 |
30–34歳 | 3.0 | 0.1 | 0.8 | 0.1 | 2.8 | 2.8 | 2.8 |
35–39歳 | 3.5 | 0.2 | 0.3 | 0.9 | 2.2 | 2.2 | 2.2 |
40–44歳 | 4.6 | 0.2 | 0.8 | 2.0 | 0.9 | 0.9 | 0.9 |
45–49歳 | 4.3 | 0.2 | 1.5 | 2.4 | 0.4 | 0.4 | 0.4 |
50–54歳 | 2.8 | 0.1 | 0.5 | 1.7 | 0.6 | 0.6 | 0.6 |
55–59 years | 1.0 | 0.0 | 0.7 | 0.0 | 0.2 | 0.2 | 0.2 |
60–64歳 | 0.3 | 0.0 | 0.7 | 0.5 | 0.7 | 0.7 | 0.7 |
黒字:男性が女性を上回る 赤字:女性が男性を上回る。
太字:該当年齢層の中での最大幅。
例:40–44歳 4.6 = 女性の割合が男性よりも4.6%多い
ソース:2018年 ニュージーランド国勢調査
各国の労働者はどのような職についているのか?
比較対象国籍者はニュージーランドでどのような職種についているのかをまとめた表がこちら。
「やはり」と言うべきか。ローカルの欧州系NZ人は管理職の割合が最も高いです。
職種 | 平均 | 日本人 | 欧州系 NZ人 | 中国人 | 韓国人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 |
管理職 Managers | 16.2 | 13.1 | 20.2 | 18.1 | 17.7 | 15.8 | 15.6 | 16.6 |
専門職 Professionals | 30.5 | 20.3 | 23.3 | 27.9 | 24.2 | 31.9 | 37.2 | 41.5 |
技術職 Technicians and trades workers | 11.5 | 13.7 | 12.0 | 12.0 | 15.8 | 10.7 | 9.7 | 7.1 |
コミュニティおよび個人向けサービス従事者 Community and personal service workers | 11.9 | 18.4 | 8.9 | 8.2 | 10.8 | 14.7 | 8.8 | 10.2 |
事務・アドミン職 Clerical and administrative workers | 9.9 | 10.1 | 11.5 | 10.4 | 7.1 | 9.8 | 11.8 | 10.3 |
営業・販売職 Sales workers | 8.7 | 10.4 | 9.1 | 11.5 | 10.4 | 6.8 | 6.9 | 6.4 |
機械オペレーターおよびドライバー Machinery operators and drivers | 2.8 | 2.2 | 5.3 | 3.3 | 3.7 | 2.6 | 3.1 | 1.8 |
作業員 Labourers | 8.5 | 11.8 | 9.7 | 8.6 | 10.3 | 7.7 | 6.8 | 6.0 |
ソース:2018年 ニュージーランド国勢調査
欧米3カ国籍者(ドイツ、ロシア、アメリカ人)は、いずれの国籍者も管理職+専門職の合計が、アジア3カ国(日本、中国、韓国)を上回っています。
アメリカ人に至っては58%もの労働者が、管理職または専門職ですが、日本人は比較国籍中、唯一40%を下回るどころか、大きく下回る最低の33%と圧倒的低さになっています。
また専門職に目を向けると欧州系NZ人が平均を大きく下回っています。
一見して意外だと感じる方がいるかも知れませんが、この数値は専門職の人材不足解消を狙う移民政策に対して説明がつく形になっています。
国勢調査で回答された職種について。
これを書いてしまうと元も子もないのですが、国勢調査では、選択肢の職種に明確な定義がないため、同一の職業でも人によって選択に違いが生じていても不思議はありません。
そのため各職の割合正確度は低いと思われます。(一例:シェフ=専門職 or 技術職? 航空パイロット=専門職 or ドライバー?)
職種をみて、自分の職種はどれに該当するのか?と迷う方も多いと思うので、私、ものかんが考える各職業を簡単に説明しておきます。
管理職 Managers | 組織やチームの目標を達成するために、人や資源を管理する職業 |
専門職 Professionals | 特定の分野における専門的な知識やスキルを持ち、サービスを提供。法律、会計、医療、金融、ITなど |
技術職 Technicians and trades workers | 特定の分野における専門的な知識やスキルを持ち主に実務的な作業を行う、いわゆる職人。大工や塗装工、電気やガス水道工事士、自動車整備工、板金工、機械・電気等の技術者などなど。専門的な料理の知識やスキルが求められ実務的な作業を行うシェフもここに分類。 |
コミュニティおよび個人向けサービス従事者 Community and personal service workers | 人々の生活に直接関わるサービスを提供する職業で多岐にわたりますが、AIに具体的な職を訪ねたところ、以下が該当するという答えが出てきました。 教育:教師、保育士、図書館員、カウンセラーなど 福祉:介護士、ソーシャルワーカー、心理士、医療従事者など 司法:警察官、消防士、法務官など 行政:公務員、社会福祉士、保健師など その他:美容師、ヘルパー、介護タクシー運転手など |
事務・管理職 Clerical and administrative workers | 企業や組織の日常的な事務作業や管理業務を行う職業。主にオフィスで働き、書類作成やデータ入力、電話対応、会議の準備、経理業務、人事業務、労務業務、法務業務など、さまざまな業務を担当 |
営業・販売職 Sales workers | 商品やサービスをクライアントに販売する職業 |
機械オペレーターおよびドライバー Machinery operators and drivers | 工場や製造業、建設業、運輸業など、さまざまな産業で機械や車両を操作し、生産や輸送などの作業を行う。工場オペレーター、建設機械オペレーター、トラック・バス・タクシー運転手など |
作業員 Labourers | 肉体労働を主な業務とする職業。建設・工場・農業・清掃・運搬作業員、観光ガイド業務 |
失業者
失業者の定義は「職のない人」ではなく、「職に就いていないが就労可能で積極的に求職活動をしている人」です。
在NZ | 日本人 | 欧州系 NZ人 | 中国人 | 韓国人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 | 7国籍 割合平均 |
労働者人口 | 8,092 | 1,256,840 | 105,710 | 17,657 | 9,063 | 4,076 | 8,549 | |
内訳 失業者 | 473 (6%) | 59,059 (5%) | 7,375 (7%) | 1,206 (7%) | 528 (6%) | 344 (8%) | 418 (5%) | 6% |
失業者の割合は、欧州系NZ人とアメリカ人が5%と最も低く、他の国籍者も差は然程ありません。しかし、英語力に問題のないアメリカ人だけが唯一欧州系NZ人と同じ最低率なのは必然か、もしくは偶然なのか、どうなんでしょうね。
最も高い失業者割合だったのは、コミュニティーのサイズが最も小さいロシア人。語学力の問題は今回比較している各国籍者と比べても、アメリカ人を除けば優劣はないでしょうし、就職に必要なスキルの有無も個人に依るため、国籍は関係ないでしょう。
ただし、コミュニティが小規模だと仲間意識が強調され、村社会的な内向き構造が生まれやすい傾向があります。その結果、コミュニティ外での人脈やネットワークの拡充や構築が難しくなり、就職や転職時にも情報収集やサポートを得ることが難しくなりがち。小さいが故にコミュニティ内部でも職の機会が限られ、外部ではネットワーク不足のため、難易度が高まっている可能性が考えられます。
次回 Part4 では各国籍者の平均年収をベースに比較して、4回にわたって書いてきたスピンオフ記事は最終回となります。
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