本稿は、在ニュージーランド日本人の収入について掘り下た記事「クローズアップ 収入 ニュージーランドで暮らす日本人のお金事情 -国勢調査を紐解く-」のスピンオフ記事Part 4にして最終回です。
過去Part 1-3はこちらからご覧ください。
在ニュージーランド日本人との比較対象6ヵ国籍
今回もPart 1-3同様に6カ国籍者を在ニュージーランド日本人と比較していきます。
各国籍者の平均年収
在ニュージーランド日本人の平均年収は2018年に行われたニュージーランド国勢調査にて17,900ドルと発表されています。
なぜ、こんなにも平均年収が低いのか?は「クローズアップ 収入 ニュージーランドで暮らす日本人のお金事情 -国勢調査を紐解く-」に書いたので興味を持たれた方はそちらをご一読ください。
では、比較対象としてあげている各国籍者および欧州系NZ人の平均年収がどうなっているのか、みてみましょう。
在NZ | 日本人 | 欧州系 NZ人 | 中国人 | 韓国人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 |
平均年収額 | 17,900 | 34,100 | 21,600 | 20,000 | 29,400 | 30,200 | 38,200 |
Loss | 100 (1%) | 7,382 (0%) | 1,932 (1%) | 302 (1%) | 86 (1%) | 40 (1%) | 58 (0%) |
Zero income | 2,416 (19%) | 92,279 (5%) | 28,447 (16%) | 4,496 (16%) | 1,068 (9%) | 593 (11%) | 940 (8%) |
1-10,000 | 2,391 (19%) | 164,257 (9%) | 27,042 (15%) | 4,661 (17%) | 1,756 (14%) | 728 (13%) | 1,462 (13%) |
10,001-25,000 | 2,380 (19%) | 478,005 (26%) | 36,700 (21%) | 5,895 (22%) | 2,653 (22%) | 1,208 (21%) | 1,973 (17%) |
25,001-40,000 | 2,006 (16%) | 297,138 (16%) | 24,057 (14%) | 4,250 (16%) | 1,805 (15%) | 689 (12%) | 1,590 (14%) |
40,001-60,000 | 1,781 (14%) | 322,976 (18%) | 27,218 (16%) | 4,469 (16%) | 1,953 (16%) | 937 (17%) | 1,926 (17%) |
60,001-10,0000 | 1,022 (8%) | 313,749 (17%) | 20,896 (12%) | 2,522 (9%) | 1,867 (15%) | 999 (18%) | 2,100 (18%) |
100,00-150,000 | 225 (2%) | 99,661 (5%) | 5,970 (3%) | 576 (2%) | 675 (6%) | 327 (6%) | 859 (7%) |
150,000+ | 125 (1%) | 68,286 (4%) | 2,985 (2%) | 247 (1%) | 393 (3%) | 113 (2%) | 708 (6%) |
年収枠の数字:各国籍者の該当人数および割合
ソース:2018年 ニュージーランド国勢調査
初っ端から衝撃的なのがアメリカ人の年収。
なんとマジョリティーである欧州系NZ人をも上回る圧倒的な高平均所得であり、日本人平均の2倍以上を稼いでいます。
アメリカ人は今回の比較対象の中で最もフルタイムで働く人の割合が高く、最も非労働者の割合は低い(Part3 労働人口編 参照)だけでなく、唯一、年収10万ドル以上の割合が13%と2桁の壁を突破しています。
アメリカ人労働者の58%が平均よりも高給が見込まれる管理職または専門職である事を見れば納得できる結果です。
職種 | 平均 | 日本人 | 欧州系 NZ人 | 中国人 | 韓国人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 |
管理職 Managers | 16.2 | 13.1 | 20.2 | 18.1 | 17.7 | 15.8 | 15.6 | 16.6 |
専門職 Professionals | 30.5 | 20.3 | 23.3 | 27.9 | 24.2 | 31.9 | 37.2 | 41.5 |
技術職 Technicians and trades workers | 11.5 | 13.7 | 12.0 | 12.0 | 15.8 | 10.7 | 9.7 | 7.1 |
コミュニティおよび個人向けサービス従事者 Community and personal service workers | 11.9 | 18.4 | 8.9 | 8.2 | 10.8 | 14.7 | 8.8 | 10.2 |
事務・アドミン職 Clerical and administrative workers | 9.9 | 10.1 | 11.5 | 10.4 | 7.1 | 9.8 | 11.8 | 10.3 |
営業・販売職 Sales workers | 8.7 | 10.4 | 9.1 | 11.5 | 10.4 | 6.8 | 6.9 | 6.4 |
機械オペレーターおよびドライバー Machinery operators and drivers | 2.8 | 2.2 | 5.3 | 3.3 | 3.7 | 2.6 | 3.1 | 1.8 |
作業員 Labourers | 8.5 | 11.8 | 9.7 | 8.6 | 10.3 | 7.7 | 6.8 | 6.0 |
ソース:2018年 ニュージーランド国勢調査
日本人の平均年収17,900ドルはどの国籍者よりも圧倒的に低く、年収枠別を見ても4万ドル以上の枠では軒並み最低の割合を示しています。
比較対象全体と比べて管理職または専門職の割合は最も低く、パートタイムの割合は最も高い(Part3 労働人口編 参照)ことを踏まえれば、さもありなんと言ったところでしょうか。
またアメリカ人に次いで、管理職または専門職の割合が高かったロシア人の平均年収も、アメリカ人、欧州系NZ人についで高くなっています。
しかし、在ニュージーランド ロシア人の殆どがNZ国外生まれの移民者で、失業者の割合が最も高く、非労働者の割合も欧米3カ国籍の中では最も高く、事務・管理職の割合が比較対象国籍者の中で最も高い。
その状態で平均年収が高いというのは不思議です。専門職の割合がアメリカに次いで高い事くらいしか説明がつかないように思えるのですが、それとも年収15万ドル以上を稼いでいる2%のロシア人が平均年収を爆上げするほど稼いでいるとでもいうのでしょうか。誰か詳しい人教えてほしいです。
年収6万ドル+ に見られる大きな差
年収60,001以上の枠に該当する各国籍者の割合を眺めていたら、管理職や専門職の割合が高いとかそういう事よりも、こっ、これはっ!? と息を呑むほどハッキリと現れている事象に気付きました。
気付きがよく見えるよう改めて見やすくしたつもりの年収表がこちら。
在NZ | 日本人 | 中国人 | 韓国人 | 欧州系 NZ人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 |
年収60,001-100,000 | 8% | 12% | 9% | 17% | 15% | 18% | 18% |
年収100,00-150,000 | 2% | 3% | 2% | 5% | 6% | 6% | 7% |
年収150,000+ | 1% | 2% | 1% | 4% | 3% | 2% | 6% |
ソース:2018年 ニュージーランド国勢調査
明確にアジア3か国籍と欧米3カ国籍で、年収割合に差があると思いませんか?
アジア3か国籍の中では、中国人がどの年収枠でも最も高い割合でしたが、それでも欧米3か国籍+欧州系NZ人と比べると、中国人の割合すら低いのがハッキリ現れています。
アジア3カ国籍者のほうが高給を望みにくい職業についているだけじゃないのか?という声が聞こえてきそうなので、高所得が望めそうな3職種(管理職、専門職、技術職)に焦点をあてた表も用意しました。
在NZ | 日本人 | 中国人 | 韓国人 | 欧州系 NZ人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 |
管理職 | 13.1% | 18.1% | 17.7% | 20.2% | 15.8% | 15.6% | 16.6% |
専門職 | 20.3% | 27.9% | 24.2% | 23.3% | 31.9% | 37.2% | 41.5% |
技術職 | 13.7% | 12.0% | 15.8% | 12.0% | 10.7% | 9.7% | 7.1% |
合計 | 47.1% | 58.0% | 57.7% | 55.5% | 58.4% | 62.5% | 65.2% |
ソース:2018年 ニュージーランド国勢調査
3職業に属する人の割合合計を見ると、日本人は圧倒的に低く、話のテーブルにつくことすらが難しい程に他国籍者の割合とかけ離れていることが分かります。
しかし、中国人、韓国人はどうでしょう。
欧州3カ国籍の中で平均年収が一番低いドイツ人と、中国人、韓国人を比較してみてください。
3職業に属する人の割合合計値を見ると、中国人、韓国人共にドイツ人との差は1%にも満たない僅差です。
それにも関わらず、平均年収は中国人$21,600、韓国人$20,000。そしてドイツ人は$29,400。
6万ドル以上稼ぐ人の割合をみても明らかな差があります。
年収 | 中国人 | 韓国人 | ドイツ人 |
$6万+ | 17% | 12% | 24% |
管理職について、私の主観で根拠もありませんが、アジア3カ国籍者の場合はそれぞれに独自の商業圏を形成している部分もあり、その中でビジネスを回している企業も多いため、管理職にも低給で働く「お一人様管理職」や「肩書だけは管理職」といった部類の人が欧米3か国籍者よりも多くいるのではないかと推測します。
イギリスを宗主国とするニュージーランドで、アジア人は食や芸術、音楽も含めて文化や、言語、宗教観、価値観そして表面的には名前や肌、髪の色など、違う点があり過ぎて親和性が薄いんだろうなぁ。なんて思っていたら、
絶妙なタイミングでニュージーランドで公認会計士として活躍するじゅり氏(@haruo_nz)がXでリポストしたものが流れてきました。
じゅり氏がリポストしたのは、Yasinさん(イスラム教影響圏で多くみかける名前)がアメリカで名前をローカライズして就職活動した結果を伝えているもの。
また、じゅり氏本人も、永住権持ち+首席卒というコンボ技をもってしても、ニュージーランドで就職先が決まるまでに多大な時間を要したとコメントしています。
今回の中国人、韓国人、ドイツ人にみられる格差は起こるべくして起こった必然なのか偶然なのか?
意見は個々人あると思いますが、どのような考えを持ったにせよ、後ろ向きになる事なく、前向きに状況を打破する事に力を注ぎたいところです。
前向きに状況を打破すると言えば、ありのままの自分を受け入れ、肯定して、差別や偏見に立ち向かう姿勢、努力と継続の大切さなど、人としての成長や成功につながる重要な価値観を教えてくれているような、上梨ライムさんの逸話があります。
上梨ライムさんはアフリカにルーツを持つハーフで、生後半年で日本に移り住み日本で育った日本人。しかし「外人」と呼ばれ、「日本語うまいね」と言われ、陸上競技で結果を出せば、「外人だから勝てただけ。そんなあなたと競うのはフェアじゃない」と言わてきたそうです。そんな彼女の母親は、「出すぎた杭になって高くそびえたっていれば誰にも打たれることのない杭になる」と言い続けたそうで、実際に陸上競技で全国大会に出場するレベルになると、皆彼女を応援するようになったという話の一部をこちらで読むことができます。
日本人の50%超が属している職種
日本人が比較対象国籍者と比べて頭一つ抜き出ているのは以下の職種群。
合計値を見ると、日本人だけが唯一50%を超えていて、これらの職種に就いている割合の低い欧米3カ国籍者の平均年収が高いという事実は無視できません。
在NZ | 日本人 | 中国人 | 韓国人 | 欧州系 NZ人 | ドイツ人 | ロシア人 | アメリカ人 |
コミュニティおよび個人向けサービス従事者 | 18.4% | 8.2% | 10.8% | 8.9% | 14.7% | 8.8% | 10.2% |
事務・管理職 | 10.1% | 10.4% | 7.1% | 11.5% | 9.8% | 11.8% | 10.3% |
営業・販売職 | 10.4% | 11.5% | 10.4% | 9.1% | 6.8% | 6.9% | 6.4% |
機械オペレーターおよびドライバー | 2.2% | 3.3% | 3.7% | 5.3% | 2.6% | 3.1% | 1.8% |
作業員 | 11.8% | 8.6% | 10.3% | 9.7% | 7.7% | 6.8% | 6.0% |
合計 | 52.9% | 42.0% | 42.3% | 44.5% | 41.6% | 37.4% | 34.7% |
ソース:2018年 ニュージーランド国勢調査
突き抜けている、コミュニティおよび個人向けサービス従事者の割合
特に20%に迫るほどの高い割合で突き抜けているのが、コミュニティおよび個人向けサービス従事者(Community and personal service workers)。
AIにどのような職がCommunity and personal service workersなのか?と尋ねたところ、以下の職がリストアップされました。
高齢者介護士・保育士・介護職員・看護助手・ソーシャルワーカー・青少年指導員・地域開発員・ホームレス支援員・精神保健支援員・薬物、アルコール依存症支援員・危機支援員・緊急サービス要員・ホスピタリティ従業員・旅行、観光従業員・フィットネス、スポーツ従業員
*上記はAIの回答です、これが全てではないと思いますし、正誤についても議論の余地があると思います。あくまでもCommunity and personal service workersとはどういった職か?をイメージする際にお役立てください。
ホスピタリティと旅行・観光従業員というのはたしかに日本人労働者の多くが該当していそうな分野ですし、実際に日本語力が求められてる求人統計をみてもHospitality & Tourism業界からの求人が多いのも事実です。
意外に感じた、営業・販売員(Sales workers)の割合
営業・販売員(Sales workers)の割合は、唯一、アジア3カ国籍すべてで10%を超えており、またこれに反目するかのように欧米3カ国籍者は6%台と低い割合です。
営業・販売と言っても、BtoB、BtoC、 フィールドセールス、インサイドセールス、リレーションシップセールス、テレセールス、訪問販売、店頭販売など、様々なタイプの営業があります。
いずれにせよ営業は顧客と直接接する機会が最も多く、価値観を伝えて共感を得ることで、売上を拡大させて企業の成長を支える重要な職であるが故に「企業の顔」と例えられるほどの職業ですし、目標達成で大きくインセンティブ収入が見込めるポジション。
その職にアジア勢の割合が高いというのは、「アジア人に対する親和性が薄いのでは?」という先述した私のコメントが誤りであるようにも思えます。
ビジネスの世界に個人の感情を入れる隙間は持つべきではありませんが、とは言え、親しみを感じ難い人が営業に来ると、得体の知れぬ奴=行動や意図が理解しにくく、身構えてしまう人が多いと思います。
プライベートでも、日本人同士なら出会って10分で打ち解ける事もあるのに、他国の人とは時間がかかるなんていうのもよく聞く話。
良好な関係を築くことが求められる営業で、親しみを感じ難い営業員=マイナスからのスタートと言っても過言ではありませんが、そのポジションにアジア3カ国籍者の割合が多いということは、売りに行くのではなく、買いたい人の対応をする店頭販売員が多いということなのかもしれません。
今回の比較でわかった在ニュージーランド日本人の特徴
ここまで4回に分けて、ニュージーランドで生活する日本人と他6日国籍者がどのような人口構成になっていて、どのような生活を送っているのか、国籍による生活の格差の有無などを2018年に行われた国勢調査の結果をデータソースとして見てきました。
以下に、今回の比較でわかった在ニュージーランド日本人の特徴をまとめて終わりにしたいと思います。
- 日本人が全員集合するとワイカト地方のケンブリッジまたはカンタベリー地方のランギオラ規模の街ができる(参照 Part1)
- 平均年齢が若く、NZ生まれの割合が高い。(参照 Part1 Part2)
- 生産年齢人口(働ける年齢15-64歳の人口)は全体の69%(参照 Part2)
- 生産年齢人口のうち2カ国語以上の言語を話せる人70%(参照 Part2)
- 生産年齢人口のうち労働者は65%(参照 Part3)
- パートタイム勤務者が多い(参照 Part3)
- 管理職・専門職に就いている割合が低い(参照 Part3)
- コミュニティおよび個人向けサービス従事者・作業員の割合が高い(参照 Part3)
- 平均年収が著しく低い(参照 当記事)
最後に
ニュージーランド統計局のソース元リンクを記しておくので興味を持たれた方ご覧ください。
日本人:https://www.stats.govt.nz/tools/2018-census-ethnic-group-summaries/japanese
欧州系NZ人:https://www.stats.govt.nz/tools/2018-census-ethnic-group-summaries/new-zealand-european
中国人:https://www.stats.govt.nz/tools/2018-census-ethnic-group-summaries/chinese
韓国人:https://www.stats.govt.nz/tools/2018-census-ethnic-group-summaries/korean
ドイツ人:https://www.stats.govt.nz/tools/2018-census-ethnic-group-summaries/german
ロシア人:https://www.stats.govt.nz/tools/2018-census-ethnic-group-summaries/russian
アメリカ人:https://www.stats.govt.nz/tools/2018-census-ethnic-group-summaries/american
2023年に実施された最新の国勢調査結果
2023年に実施された最新の国勢調査結果は、2024年の冬頃に第一弾が公表予定になっています。
2019-2023年にかけてニュージーランドの経済は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって大きな影響を受けたことは誰もが知るところ。その間も最低時給は毎年上昇を続け、2019年4月に$18.90だったのが2023年4月には$22.70になりましたが、同時に21-22年にかけて経済の回復や原油価格の上昇などを受けてインフレ率は急騰して30年来の高水準となり家計にプレッシャーを与えている。そんな状況下で行われた国勢調査なので結果がたのしみです。
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