なぜトッテナムは地球の裏側まで来るのか?NZ政府もお金を出すサッカー興行の裏側

オークランドで日本人新旧ディフェンダー対決が見られるかも。今月26日に酒井宏樹キャプテンが率いるオークランドFCがホームでプレシーズンマッチとして対戦するのはイングランドプレミアムリーグのトッテナム。そしてこのチームには次の4年で日本代表入りが期待されている身長192センチの大型ディフ… pic.twitter.com/rRW0IL7je7
— ものかん@ニュージーランド (@nznomoney) July 17, 2026
ニュージーランドで日本人対決が見られるかもしれません。
2026年7月26日、Eden Parkで行われるオークランドFC 対 トッテナムのプレシーズンマッチ。
オークランドFCには酒井宏樹選手が所属。
トッテナムには高井幸大選手が所属しているため、両選手が試合に出場すれば、ニュージーランドで日本人対決が実現することになります。
遠征メンバーや出場選手情報が見つからないので、「実現するかもしれない」という話です。
日本サッカーファンとしては、ニュージーランドで実現するかもというだけで興味深い一戦。
でも「ニュージーランドのお金」的に気になるのは別のところです。
なぜ、世界最高峰のイングランドプレミアリーグで戦うトッテナムが、わざわざ地球の裏側まで選手を連れてきて、A-LeagueのオークランドFCとプレシーズンマッチをするのでしょうか?
ものかん正直なところ、ビジネスの匂いしかしません。
という事で、オークランドFCの告知ページに掲載されている関係団体から、このイベントのお金と目的を透かしてみます。

そもそもトッテナムを単独で呼び込んだ企画ではない
今回の試合を仕掛けたのは、国際スポーツ興行を手がけるTEG Sportです。
- 7月25日 トッテナムの公開練習
- 7月26日 オークランドFC 対 トッテナム
- 8月8日 オークランドFC Women’s Invitational XI 対 チェルシーFC Women
をまとめて、「New Zealand International Football Festival」としてイベントを組んでいます。
ものかん記事の本筋から外れますが、今回、来NZするチェルシーFC Womenにはなでしこジャパンに招集される常連と準主力級の2選手が所属しています。期限付きレンタル先のトッテナムからチェルシーへの復帰が予定されているFW浜野まいか選手と、7月3日にアメリカ女子サッカーリーグのノースカロライナ カレッジからチェルシーへの電撃移籍が発表されたMF松窪真心選手。この二人も帯同してオークランドに来るのか注目です。
公開練習1回と試合を男女各1試合ずつで「International Football Festival」とは、タイトル負けしがちなニュージーランドイベントあるあるな気もします。
ただ、今回見るべきなのはイベント名ではありません。
トッテナムやチェルシー女子チーム といったプレミアリーグのクラブを地球の裏側まで連れてくるには、選手やスタッフの航空券、宿泊費、会場費、警備費、出演料など、かなりの資金が必要です。
オークランドFCとの試合のチケット収入だけで、その費用と興行リスクを負担できるのでしょうか?
そこで関係団体を見ていくと、TEG Sportだけでなく、トッテナムのスポンサーであるAIA、ニュージーランド政府、Auckland Councilまで出てきます。
つまり今回のポイントは、TEG Sportが試合を企画した事ではありません。
民間の興行会社だけでは成立しにくいニュージーランド遠征を、スポンサーと行政がどう支えているのか?
AIAにとってはNZでトッテナムを使う機会
まずAIA。
AIAは、ニュージーランドを含むアジア太平洋地域で、生命保険や健康関連サービスを展開する保険グループで、今回のオークランドFC 対 トッテナム戦のメジャーパートナーをAIA New Zealandがつとめます。
そしてなによりもAIAはトッテナムのGlobal Principal Partnerであり、ユニフォームの胸スポンサーでもあります。

AIA側も今回のイベントについて、
「トッテナムとのグローバルな提携をニュージーランド国内で具体化する機会」
だと説明しています。
AIAにとってのメリットは、試合会場にロゴを出すだけではなく、世界的な知名度を持つプレミアリーグのクラブ、トッテナムを使ってニュージーランドの一般消費者や、子供その家族、保険アドバイザー、ビジネスパートナーらとの接点を作れるマーケティング機会です。
●顧客や取引先向けのイベント
●8~14歳の子ども100人を対象としたFootball Coaching Clinic
●ブランド認知の拡大
●保険代理店やビジネスパートナーとの関係強化
AIAは実際に、トッテナム戦に関連する活動をNZ国内で展開しており、イングランドプレミアリーグのクラブをNZに連れてくるメリットがAIAにはあるという事です。

NZ政府のNZ4000万ドルパッケージも適用
民間企業だけでなく、ニュージーランド政府も支援しています。
政府は、海外の大規模なスポーツ、音楽、文化イベントなどをニュージーランドに誘致するため、「Events Attraction Package」を設けています。
予算は総額NZ4000万ドル。
今回のNew Zealand International Football Festivalも支援対象です。
ここで勘違いしてはいけないのが、
今回のサッカーイベントにNZ4000万ドルが使われているわけではない
という点。
NZ4000万ドルは制度全体の予算です。
このイベントに具体的にいくら投入されたのかは非公開。
そのため、
- トッテナムに支払われる出演料
- 選手やスタッフの航空券・宿泊費
- TEG Sportへの開催支援
- オークランド市の負担額
- 興行収入が不足した際の保証
こうした具体的なお金の流れは分かりません。
ただし、ニュージーランド政府が公費 ≒ 税金 を使って、このイベントの誘致を支援している事は確認できます。

政府はEvents Attraction Packageについて、国際的な興行の誘致競争では、開催国がインセンティブ資金を提供するのは一般的だと説明しています。
要するに、ある意味で「言わずもがな」ですが、
何もしなくてもトッテナムが自主的に来てくれるわけではない
という事です。
オークランド市が狙う「冬の27,000泊」
オークランド市も、Tātaki Auckland Unlimitedを通じてイベントを支援しています。
同組織が公表した予測は下記のとおり。
●約27,000 visitor nights
●地域経済を約NZ300万ドル押し上げる
そして、この予測した数字について、
a strong result for Auckland over winter (冬のオークランドにとって強い結果)
と(算出した予測数字を)評価しています。
ものかん27,000 visitor nightsは、27,000人が宿泊するという意味ではありません。
visitor nights=延べ宿泊数。
1人が3泊すれば3 visitor nightsとして計算されます。
また、NZ300万ドルはTEG SportやオークランドFCが得る利益でもありません。
ホテル、飲食店、バー、小売店、交通など、イベントを目的に訪れた人が地域で使うお金によって発生すると予測される、オークランド経済への押し上げ効果です。
特にオークランドの冬は、大規模な国際イベントが少なく、観光や宿泊の需要も落ちやすい時期。
繁忙期に、すでに埋まっているホテルへ客を呼ぶのと、空室の多い冬に客を呼ぶのでは、同じ1泊でも経済的な意味は違います。
オークランド市が求めているのは、試合の盛り上がりだけではなく、冬のホテル、レストラン、バーなどを盛り上げる動きを作る事です。
それぞれが別のものを売っている
関係者を整理してみます。
TEG Sport
チケットやPremium Hospitality Packageを販売して、興行収入を得る。
AIA
トッテナムとのスポンサー契約をNZ市場で活用して、企業やブランドを売る。
トッテナム
プレシーズンの調整をしながら、スポンサー活動と海外ファンとの接点を作る。
今回のオークランドFC戦は、その後のシドニーFC戦、Chelsea戦へ続くAustralia・New Zealandツアーの最初の試合です。
オークランドFC
世界的クラブと試合をする事で、クラブの知名度と商品価値を上げる。
ニュージーランド政府
海外の大型興行を誘致し、観光客、雇用、国際的な露出を増やす。
オークランド市
冬の宿泊、飲食、小売などへの追加需要を作る。
同じものを売っているわけではない
このように、一つのイベントに関わっている企業や組織が揃って同じものを売っているわけではありません。
- TEG Sportはチケットを売る。
- AIAはブランドを売る。
- 両クラブはクラブの価値を売る。
- NZ政府とオークランド市は、ニュージーランドとオークランドという開催地を売る。
これら複数のビジネスが、1試合の上に重なっていると言えます。
本当に気になるのは公費の金額
今回のイベントを、オークランドFC 対 トッテナム戦のチケット収入だけで考えると、成立させるのは至難の業です。
なぜ、遠征費をかけて地球の裏側まで来るのか?
なぜ、イングランドプレミアリーグよりも競技水準の低いA-Leagueのクラブと試合をするのか?
しかし、
●民間プロモーター
●グローバルスポンサー
●NZ政府
●オークランド市
●地元クラブ
●海外クラブ
これらを一つの構造として見ると、経済合理性は見えてきます。
純粋にチケット収入だけで儲けるのではなく、複数の関係者が、それぞれ別の利益や経済効果を得られるように設計されたイベントであり、ニュージーランドに限らず、大きなイベントには常にこのような発想が重要になります。
このイベントが納税者にとって得なのか?
税金を使っているのなら、このイベントが納税者にとって得なのか?
という問いは出てくるでしょうが、オークランド地域経済への効果はNZ300万ドルと予測されている一方で、政府やオークランド市がいくら支援したのかは非公開。
投資額が分からなければ、費用対効果も計算できません。
公費がNZ$300,000で、地域経済への効果がNZ300万ドルなら、悪くない話に見えます。
でも公費がNZ300万ドル以上なら話は全く変わります。
官民連携によって、トッテナムが地球の裏側まで来る経済合理性は作られましたが、その合理性を作るために、NZ政府とオークランド市がいくら払ったのか?は気になるところです。
