止まらない住宅サイズの縮小化

生活

広大な自然が印象的なニュージーランドは、日本の本州と四国を合わせた程の国土に人口は福岡県同等の500万人程度と少ないため、土地に余裕があり住宅も大きいと思われがち。

でも実際は2013年から2022年までニュージーランドの新築住宅平均フロア面積は縮小を続けており、2013年時の186m2 から10年経った2022年には1件あたり平均フロア面積が60m2も小さい126m2 になっているこの驚きのデータをご覧ください。

ソース:StatsNZ

車をすこし郊外まで走らせれば土地はたくさん余っているようにしか見えないのにどうして?

人口増加

1991年には人口349万人だったニュージーランドですが、31年後の2022年には515万人を突破。31年間で166万人増=48%増という猛スピードで人が増えています。

ソース:StatsNZ

これが出生による自然増加であれば、子が親元から巣立つまでに十分な時間があるので急に住居が必要になることはありませんが、ニュージーランドの人口成長は自然増加数の2.5倍にもなる移民流入と、ワークビザを取得して短中期で滞在する外国人労働者を加えた急激な人口増加が、「住宅需要の沸騰」を呼び起こし「住宅供給不足」という流れで今日に至っています。

ものかん
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StatsNZ (NZ統計局)は、NZ人の(移住先からの)帰国者と、外国籍の移民流入者数を分けて、より細かな数字を把握しています。

2023年2月期の移民流入出者数(暫定値)をみると、海外に移住するために出国したNZ人の数が、移住先から本帰国してきたNZ人の数を超えています。この数字だけ見ると人口減少となりますが、永住権を取得してニュージーランドに移り住む外国人の数が大きく上回っており、人口増加に関与していることが分かります。

ソース:Stats NZ

また、人口を語るには当然、出生と死亡者数も必要な情報なので追記しておくと、過去1年間(2022年1月-12月)の人口の自然増加数は+20,313人(出生58,887人、死亡38,574人)です。

住宅供給不足

「住宅が不足している」といっても、住む場所が全くなく、路頭に迷っている人が大量発生しているという意味ではありません。

国の視点から見ると、適切な価格帯や地域での住宅供給が不足しており、人々がより良い生活を送るために心身ともに健康的な住環境を手に入れることが難しいので、ウェルビーイングを高めるために、手の届く不動産の開発など積極的な解決に向けた取り組みが必要。という状況です。

例えば、一家4人で移住してきて、一先ず移動に便利なセントラル圏内の賃貸物件に落ち着くも、予算の都合で家族が一つの部屋で寝泊まりしなければならず、持ってきた貯金を食いつぶす前に家を買おうと思ったら100万ドルもしてローンが必須も、仕事に就いたばかりでローンを組むのも難しそう。その間も不動産価格は上昇し続け、マイホームは手が届かないところとなってしまった。 というような状況は問題であり、解消すべし。という認識ですね。

具体的にどれほど住宅が不足しているのか?については、政府はもとより、不動産業界やアナリストなどからも様々な数字が出ていますが、ニュージーランドのシンクタンク The New Zelaand Initiativeが2021年2月に発表した「THE NEED TO BUILD: THE DEMOGRAPHIC DRIVERS OF HOUSING DEMAND」によると、執筆時点でニュージーランドは40,000戸の供給不足に見舞われており、将来の見通しとして2019年から2038年までの間、毎年、新たに34,556戸の住宅が必要とのこと。興味深いのは、必要な住宅戸数の計算を単純に人口増加予測を基におこなうのではなく、人口動態の変化を、世帯数と世帯構成の変化予測に織り込んで算出したている点で、巷によくある人口が増えるから何戸必要だろうという安易な予測よりも踏み込んでいて、よりリアリティーのある数字だと思います。

居住区域の中密度化促進

人口が増えていて、手の届く不動産の開発を積極的に推進するなら都市と比べて地価が安価な傾向にある地方や過疎化しつつあるような町を再開発すれば良いじゃないか?と思いがちですが、仕事は都市に集まりがちで、それが故に人々も都市に集中するのが世の常です。

しかしオークランドやウェリントンといった都市には、既に建っている家だけでは急激な人口増加による住宅需要を満たせるはずなく、また建坪率などの制約があるなかで新築住宅を建てて住宅不足を解消しようとすれば、当然、街は裾野を広げるようにして郊外へ広がります。

そのようにして開発されてきた街がオークランドでいえば、AlbanyやEast Tamaki、Masseyなど。最近ならHobsonvilleやMillwaterなどです。

しかし、国に人口が少ない=税収入が少ない=国として使える予算が少ないため、人口増加にあわせて街を横に広げ続けられるほど潤沢なインフラ整備とそのメンテナンスにかかる予算の確保が難しいという実態があるので、ニュージーランド政府は街を横に広がることを抑えつつ、持続可能な都市開発を続けるために居住区を縦へ伸ばして人々をより密集させる事で既存のインフラを活かすという、世界中の都市で実践されている方法を政策として導入し実行しています。

最近でいえば、2021年12月に RAM (Resource Management (Enabling Housing Supply and Other Matters) Amendment Act 2021)という法改正が成立し、ニュージーランド政府はオークランド、ハミルトン、タウランガ、ウェリントン、クライストチャーチの各自治体に対して住宅地の大半を中密度住宅地に変更できる法的枠組みを提供しています。

RAMに先駆けること3年。首都ウェリントンは2018年に都市内の住宅不足に対処するために、中密度住宅の建設を促進することを目的とした10カ年計画Housing Strategyを発表し、実行し続けていますし、国内最大都市オークランドでも、2018年に発表していた都市開発計画 Auckland Plan 2050にRAMの法改正を受けて以下のような変更を加え、即実行しています。

  • 中密度住宅地の開発促進
  • 中密度住宅地での建物の高さの制限緩和
  • 中密度住宅地での駐車場の最小スペース要件緩和
  • 既存の住宅地での中密度住宅地の開発を促進

このように国が中密度住宅の促進を加速させる枠組みを作り、各自治体が具体的な政策に落とし込み、不動産開発業者が集合住宅の建てていくという流れでユニットハウスやアパート。マンションなどの集合住宅の建築を推進して住宅不足の解消に向けて取り組んでいます。

実際にはどれほどの集合住宅が建てられているのかは、ニュージーランド全土の戸建て住宅と集合住宅の建築着工許可件数をみるとよく分かります。

建築着工許可件数とは業者が行政に建築許可を申請して許可を得た件数です。申請後に事情が変わり、許可は得たものの着工しないケースもあるため実際に建てられた戸数とは異なることが多いですが建築需要や経済動向などの指標に用いられます。

ニュージーランドでは、2015年辺りから集合住宅の許可件数が上がり始め、2018年頃に加速。RAMの法改正後、2022年3月の時点で集合住宅が戸建てを抜き、以降はその差が開いてきているのがよく分かります。

ソース:Stats NZ
ソース:Stats NZ

オークランドに至っては、ニュージーランド全国に先駆けて2018年9月には集合住宅が戸建ての着工許可件数を抜いており、2022年9月には戸建て5,222戸、集合住宅16,763戸と、その差は3倍の開きになっています。

ソース:Stats NZ
ソース:Stats NZ

このように、住居が不足している中で街を横に広げずに、集合住宅を促進して居住空間を縦に拡大させるという事は、より多くの住宅を市場に供給できる反面、1戸あたりの居住区間が狭まるというのは想像に容易いと思います。

価格の上昇

ニュージーランドの住宅価格はとにかく高い。

ここにOECDが加盟国の実質住宅価格(Real House Prices)を比較したグラフがあります。

ソース:OECD Data

このグラフは2015年の住宅価格を100とした場合、2018年から2022年までのデータを元に住宅価格がどれほど値上がっているのかを示したもので、ニュージーランドはOECD加盟国中3番目に値上がり度が高いというのが分かります。

ものかん
ものかん

実質住宅価格は物価変動を考慮して計算されるため、例えば、物価が上がった場合にも、実際の住宅価格が上がっているのか、単に物価の影響で上がっているのかを見極め、住宅市場の変化をより正確に把握するための指標として使われています。

グラフの数値をもとに平たく言うなら、2015年に世界共通で100円だったものが、今は日本で119円。ニュージーランドでは164円するということですね。

そして住宅価格が高騰しているのは、建築コスト(資材と人件費)の高騰と、先に述べた住宅供給不足による需要の高騰が大きな要因だと言われています。

2022年5月にMinistry of Business Innovation Employmentが発表した建築・建設セクターの動向スナップショットによれば、過去最高の新規住宅建設許可件数と住宅建設需要が建築資材と人夫の確保を難しくしていると記してあり、またStatsNZ(NZ統計局)は2022年3月期の建築コストが前年同期比18%増となり、統計を開始した1985年以来最大の上昇率を記録したと発表しています。

建築着工許可件数を基にInterestがまとめた住宅スタイルごとの建築コストによると、2016年第3四半期には$1,909/m2 だった建築費用が、2021年第3四半期には$2,494/m2となっており、1平米あたりの建築コストが5年で$585も上昇しました。これにより、住宅サイズの縮小にも関わらず建築費用が上昇していることがクリアに分かります。

ソース: Interest
ものかん
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テーブルをみると、アパートの一戸あたりのサイズが最も小さく、建築コストは最も高いことが分かり、そのあとにRetirement Village Units(高齢者向け施設)が続いています。

この数字の背後には消防安全基準、耐震性能、遮音対策などの建築規制や、共有部分(エントランスやエレベーター、駐車場、貯水タンクや電気設備など)にあてる費用が一戸建てやタウンハウスよりもかかっているということなんでしょうかね。詳しい人がいたら教えてほしいです。

現状と今後の見通し

人口増加

不確定要素だらけで予測は難しいですが、間違いないのは近い将来、ニュージーランドは65歳以上の高齢者が人口比で20%を超えて高齢化社会を迎えるということ。StatsNZ(NZ統計局)はそれを2048年頃と予測しています。

ものかん
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一般的には、高齢化社会を迎える頃に労働年齢人口の割合が減少する可能性が指摘される可能性があるため、政府は移民政策を緩めてより多くの移民を受け入れる体制を構築したり、出生率向上の促進として育児支援プログラムや家族手当などの拡充・支援をおこない、少子高齢化に対処しながら人口ピラミッドの改善に向けて施策を推進していくことになります。

ただし、高齢化社会になるからといってすぐに人口増加からマイナスに転じることはなく、StatsNZ(NZ統計局)は2022年時点の状況を基にした人口予測を以下のようにおこなっています。(画像が小さすぎる場合はリンクから直接StatsNZ(NZ統計局)のページを開いてください)

ソース:StatsNZ

これによると、ニュージーランドは2053年以降は死亡者数が出生数を上回り、自然増減数はマイナスに転じるものの、2026年以降、毎年2.5万人の移民純増があり、2046年には人口600万人を突破して2073年まで堅実的な人口増を続ける予測になっています。

住宅供給不足

2021年時点でのThe New Zelaand Initiativeの予想では、少なくとも2038年まで住宅不足は続くとみているようです。

2023年5月の時点でも、住宅供給における劇的な改善はみられていない中、短期ではサイクロン-ガブリエルの被害に伴う復興が需要を支える形になるはずですが、需要は大幅に落ち込んでいます。

OCR(公定歩合)の上昇による住宅ローン金利の上昇で購入を保留するケースが増え、建築業者や請負業者などが金融機関から借り入れる資金の金利上昇などにより財務が追い込まれて倒産するケースが多く見受けられており、それらが需要の抑制となり、市場は「買い控えにより冷え込んでいる」状況。

その裏付けとして2023年5月4日に発表された建築着工許可件数をみると、2023年3月期の許可件数は前年同期比で7.9%減の46,924戸でしたが、内訳をみると、集合住宅は6.6%増の1,694戸と依然増加傾向であるものの、戸建住宅は23%減の5,734戸と大幅減少を記録しています。

金利が上昇し続ければ、さらに不動産市場は冷え込む可能性があり、今後どのように進展するか非常に不透明な状況だといえます。

居住区域の中密度化促進

全体では中密度化の促進は順調に進んでいますし、住宅の形を一戸建てか、ユニットかという限られた選択肢から開放し多様性と手が出せる価格の物件を市場に供給していくことを国を上げて推進し、開発業者に助成金も提供しているし、先にも述べたとおり、急激に都市を横に広げるのは不可能なので、今後も中密度化は続くと思って間違いありません。

この手のニュースがオンラインメディアで取り上げられるたびに、これを忌み嫌う人々がコメント欄に「ニュージーランドらしくない」という類のコメントを、ときに辛辣な言葉を使って残しているのが見受けられるので、どこかのタイミングで「古き良きニュージーランド」を大切にしたいコミュニティーの強い反発を受けることもあると思いますが中密度化化を食い止める力はないでしょう。

住宅サイズの縮小

街は縦に伸ばすのが国の方針。土地の有効活用の視点からも、国家予算の視点からみてもこの方針が覆されて横に広げる方向転換なんてのは考えられませn。

人口は移民政策に依存しつつも、コロナ発生時のようなパンデミックが再発しない限り増えるし、それにあわせて住宅需要も増えます。需要が増えれば価格は上がり、手が届く物件を提供するにはフロア面積を狭めるということになります。

もちろん、物価が下がり、金利が下がり景気が上向けば不動産を手に入れやすくなる環境が整うことになるので戸建ての需要が回復する見込みはありますが、その頃には中密度からさらに高密度住宅の供給が増えてくるはずで、住宅サイズが大きくなることは考えにくい。

既に、「都市開発に関する国家政策ステートメント2020(NPS-UD)」ではオークランドやウェリントンなどの大都市では住宅やビジネス用途の需要を反映するために建物の高さや都市形態の密度を高め、バスのエキスプレス停車駅から徒歩圏内には少なくとも6階建て以上の建築開発でないと認めないことが明記されていますし、なんなら人々が車を所有または使用しなくても仕事やサービス、エンタメ等にアクセスできる、より高い密度の開発を促進することを目的に、集合住宅の開発に駐車場スペースを用意しなければならいという駐車場要件を削減しています。

都市の中密度化は全国に広がりをみせながら、大都市では早々と次のステップとして高密度化の促進が始まっています。

このように政府主導で中・高密度の集合住宅が立ち並ぶように誘導されているので、ニュージーランドの平均住宅サイズが今後も小さくなっていくのは明らかです。

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